たとえば、親への愛着や信頼が弱まったり、学習意欲が低下したり、大人になってからパートナーや他人に対する暴力を容認しやすくなったりするというデータが示されています。
一方で、残り3項目については「有意な差が見られなかった」という結果にとどまり、プラスの影響が確認された指標はゼロでした。
(※有意差がなかった3項目は、認知能力、運動能力、児童労働への従事確率でした。ただ認知能力については米国での調査では低下したとの研究結果もあります。)
つまり、この研究のデータからは「どんな国・どんな子どもであっても、叩くなどの体罰が彼らの成長に役立つ」という証拠は一切見つからなかったのです。
さらに興味深い点は、文化的背景や経済力が異なる国々のデータを合わせても、結果の方向性がほぼ一貫していたことです。
従来、高所得国では「叩いても良いことはない」という傾向が示されていましたが、今回の分析は、低・中所得国でもそれが同じように当てはまることを強く裏づける内容となりました。
ここには、しつけの仕方や社会の慣習がどうであれ、体罰が普遍的に子どもに悪影響を及ぼす可能性があるという、重要な示唆が含まれています。
短期の服従か、長期の破壊か

今回の分析結果が示す最大のポイントは、体罰が「文化の違いや社会の慣習を問わず、子どもの将来に一貫した悪影響を与える可能性が高い」という点です。
これまで一部では、体罰が日常的に行われる環境においては、有害性が軽減されるかもしれないという説も唱えられてきました。
しかし今回の研究では、子どもが育つ地域で体罰が当たり前とされている場合でも、親子の信頼関係や学業成績、メンタルヘルスなどに悪い影響が出ることが裏づけられました。
さらに興味深いのは、「体罰を経験すると、将来的に暴力を容認しやすくなる」という点です。
これは、子ども時代に叩かれたり殴られたりした経験が、暴力そのものを「使っても仕方がないもの」と捉える心理を育んでしまう可能性があることを示唆しています。