さらに、脱調現象は発生の兆候を早期に検出できるという点で、かつての集中型電源では制御によって被害を未然に防ぐ仕組みが存在していました。具体的には、脱調のリスクがある発電所には脱調検出リレーが備えられており、非同期状態に至る前に遮断や負荷調整といった制御を行うことが可能だったのです。
しかし、太陽光や風力のような分散型電源では、対象となる発電設備が膨大な数にのぼり、個別に脱調の予兆を検出して制御することは現実的に不可能です。仮にそれを実現しようとすれば、莫大な整備費用が発生し、その費用負担を誰が担うかという別の問題が生じます。
このことからも、分散型電源の普及に伴う新たな系統安定性の課題がまた一つ明らかになったと言えるでしょう。
6. 復旧の速さは賞賛に値する
今回の広域停電は、スペイン時間で4月28日12時30分頃に発生し、約20時間後の翌29日朝には、スペイン・ポルトガルの両国ともにほぼ全面復旧しています。これは、2018年に発生した北海道全域停電(ブラックアウト)の際、99%の復旧に約50時間を要したことと比べても、非常に早い復旧だったと評価できます。
もちろん、今回は地震などの大規模災害が原因ではなく、送電線自体の設備被害が限定的だったことが復旧を早めた一因と考えられます。また、スペインは停電復旧にあたり、フランスとの連系線を迅速に回復させ、フランス側の系統から電力供給を受けながら復旧を進めたことも、大きな助けになったと思われます。さらに、ポルトガルは水力発電の比率が高く、出力調整がしやすいという特性があり、停電からの立ち上がりにおいて有利な条件を持っていました。
ただし、こうした前提条件があったにせよ、広域停電からの復旧というのは極めて困難な作業です。送電線が健全であっても、単純に順次電力供給を再開していくと、復旧した地域では一斉に電気が使用され始めます。その結果、発電量が需要に追いつかず、再び系統が不安定化し、再停電が発生するリスクがあるのです。