さらに、3つ目の論点である再生可能エネルギーとインバーターの関係についても、系統側の電圧が大きく変動すると、インバーターが正常に動作できず停止してしまうことは技術的に十分に理解できます。

ここで再び、図2に示したヨーロッパの送電系統を思い出してください。ポルトガルは系統の末端に位置しており、スペイン側で脱調現象が起これば、その影響が最も早く、かつ大きく現れるのはポルトガルの系統側である可能性が高いと言えます。

5. なぜ脱調現象が発生したか?

今回の停電の原因について、私は次のような流れで現象が進行したのではないかと考えます。すなわち、脱調現象が発生し、系統の電圧が大きく変動したことで、太陽光発電や風力発電に用いられているインバーターが大量に停止し、供給力が一気に不足しました。その結果、周波数が低下し、それに耐えられなくなった火力発電や水力発電、さらには原子力発電までもが停止し、広域にわたる停電が発生したのではないでしょうか。

では、脱調現象がどのようなときに発生しやすいかというと、上位系、つまり電圧の高い基幹系送電線において、特に大きな潮流(重潮流)が流れている状態で事故が起きた場合です。スペインでは400kVの送電系統がこれに該当します。

こうした基幹送電線は通常、1号線・2号線の2回線構成になっていますが、もし両方が同時に事故で停止するか、あるいは1回線が点検などで停止している間にもう1回線が事故で停止するような事態が発生すれば、送電線全体のインピーダンスが急激に変化し、それが脱調現象を引き起こす原因となります。

今回のスペインでの停電に関しては、図7に示されているように、太陽光発電の設備は日照の豊富な南部から南西部にかけて多く分布しています。そして、これらの地域で発電された電力は、マドリードやバルセロナといった北部の大都市に送電される必要があるため、送電線には南から北への大きな潮流が常態的にかかっていたと考えられます。

図7 スペイン国内の太陽光発電の分布Global Enagy Montorより