つまり、太陽光発電の大量導入によって、送電線事故が発生した際に脱調現象に陥りやすい系統状態が生じていたにもかかわらず、何らかの技術的・制度的対策が十分に講じられていなかった可能性があります。
そうした状況下で大規模な送電線事故が実際に発生し、それによって系統が不安定化し、脱調現象に至ったのではないかと推測されます。送電線の事故そのものをゼロにすることは不可能である以上、事故が発生しても発電機の同期運転を維持できるような設計や保護制御の強化といった、現実的な系統対策をあらかじめ講じておく必要があるのです。
では、日本がスペインと同様の広域停電に見舞われないためには、何をすべきでしょうか。かつての集中型電源の時代には、発電所と送電系統は一体的に整備され、事故への備えも含めて体系的な対策が取られていました。たとえば1970年代までは、東京湾岸などの消費地の近隣に火力発電所を建設し、電力を安定的に供給していました。
しかしその後、大規模火力発電や原子力発電は、福島・新潟・福井といった消費地から離れた地域に建設されるようになり、長距離の送電線を通じて関東や関西へ電力を送る構成へと移行しました。こうした構成では、送電線の一部に障害が生じた場合、その影響が広域に及ぶリスクが高まります。そのため従来は、電源の立地と送電網の整備をセットで進めることが原則とされ、送電線網の強化が計画的に行われてきました。
ところが、近年急速に導入が進んでいる太陽光発電や風力発電は、その立地や規模が分散的かつ予測困難であり、電源開発と送電線整備が連動して進められにくくなっています。送電線の新設や増強には莫大な費用がかかるため、現在では明確に熱容量の逼迫が見込まれる場合に限って最小限の対応が取られているのが実情です。
このまま、たとえば東北地方北部に風力発電が集中し、あるいは九州・四国地方で太陽光発電が大量に導入される状況が続くにもかかわらず、送電網の適切な増強が行われなかった場合、送電線事故によって脱調現象が引き起こされ、結果として大規模停電に至る可能性は否定できません。まさに、スペインで起きたことが日本でも現実となりうるのです。