「米ドルは不換紙幣のまま世界の基軸通貨となっているし、米国債は世界中でいちばん担保としての利用価値の高い金融資産なのだから、どんどんドル札を増刷したり、米国債の発行高を増やしたりすれば、アメリカが財政危機に陥ることはない」といった議論もあります。
しかし、実際には米ドルも米国債も発行高が多すぎれば確実に価値が下がり危機を回避するどころか火に油を注ぐような結果になります。商品一般と同様、需要と供給の法則に逆らうことはできないのです。
まず、その概念図からご覧ください。
ここでは国債価格と金利が需給の変化でどう動くかを図解しています。
毎年膨大な経常黒字を出している日本や中国のような国がその黒字を米国債というかたちで持ちつづけると需要が供給を上回るので、国債の買い手は低い金利しか得られなくても買いつづけ、経済全体にとって低金利で借入れができ、企業活動や住宅取得も活発になります。
逆に、これまで安定した買い手だった経常黒字国が売り手に回ると需給が逆転し、売り手は低価格でも売らざるを得なくなり、経済全体にとって金利が上がることによる企業活動や住宅取得の低迷が生ずるというわけです。
もちろん、需給が変わるきっかけを作るのは外国勢とは限らず、財務省が国債を乱発することかもしれないし、大手機関投資家が買い持ちしていた米国債を売りはじめることかもしれません。
ただ、アメリカの場合、次のグラフに出ているように流通中の米国債総額の27%、約7兆2500億ドルを外国の政府・中央銀行、企業、投資家などが持っているため、つねにアメリカに対して敵意を持っている米国債保有国による売り崩しを警戒しているわけです。
なお、膨大な金額の米国債・米ドルを外国勢が持っていることについて、かなり経済に詳しいアメリカの知識人でも「世界貿易が円滑に米ドルでおこなえるように、アメリカは犠牲的精神で経常赤字を出して、米ドル・米国債を世界中にばら撒きつづけている」といった議論をする人が多いです。