相補性というのは後にコペンハーゲン解釈と呼ばれることになる理論の元になるもので、つまりは「観測するまで物事の状態は確定しない」という考え方に通ずるものです。
このため、パウリはユングの分析に自分の無意識下の物理的原理が反映されていると驚き、ユングもまた、パウリが無意識の深層と強く結びついている特異な被験者であると興味を抱きます。
パウリのように、科学の最先端を扱う理性の人が、まるで物理学の抽象概念そのものを象徴するような夢を自らの内面から生み出している――これはユングにとって極めて興味深いことだったのです。
やがてパウリは1000を超える夢を記録し、ユングとともにそれを分析していくことになります。
この分析を通じて二人がたどり着くのが、「心」と「物質」の世界をつなぐ共通の基盤が存在するのではないか、という仮説でした。
そしてそれは「共時性(synchronicity)」という理論へと結実していきます。
共時性――心と物理が交差する“意味のつながり”
二人の議論からまず生まれたのが「共時性(synchronicity)」という概念でした。
これは、時間や場所の因果関係では説明できないのに、意味によって結び付く出来事の一致を指します。
たとえば何年も会っていない友人を夢に見た翌日に、その友人に偶然再会する、といった現象があった場合、これを本当にただの偶然と考えるのではなく、因果関係はないとしても、夢と現実の間に何らかのつながりが存在すると解釈する考え方です。
パウリもこの考えに共鳴し、二人は因果関係がなくとも『意味で繋がっている現象』を共時性と呼んで共同で探究していったのです。(ここでいう「意味」とは、本人が「重要なことだ」「意味のあることだ」と感じる感覚を指します)
1952 年にユングが発表した論文を、パウリが何度も読み直し、論理のほころびを指摘しながら整えたことで、概念が形になりました。