一方、横向きの卵は縦向きよりもしなやかで、力を受けると殻が少したわみます。
その「たわみ」こそが衝撃を吸収するクッションの役割を果たし、殻全体に力を分散させてくれます。
これはちょうど高い所から飛び降りるとき、膝を伸ばしたまま着地するより膝を曲げて着地した方が衝撃を和らげられるのと似ています。
研究チームのジョセフ・ボナヴィアさん(機械工学専攻の大学院生)は次のように説明しています。
「ある意味では、膝を曲げた脚は『より弱い』ように見えますが、衝撃を吸収するという点では実際にはより強いのです。」
「卵も同じことで、強さとは単に大きな力に耐えることだけでなく、その力をどう分散・吸収するかにかかっているのです。」
つまり縦向きの卵は初期的な剛性(stiffness)は高いものの靭性(toughness)が低いのに対し、横向きの卵は剛性は低い代わりに靭性(衝撃に耐える粘り強さ)が高いといえます。
今回の結果は、これまで混同されがちだった「硬さ」と「強さ」と「靭(しな)やかさ」の違いをはっきり示すものでもありました。
身近な経験からすると、「卵は横から割れる方が簡単」と思うかもしれません。
実際、料理で卵を割るとき私たちは横向きに軽くぶつけて殻にひびを入れ、中身を取り出します。
しかしこれは殻の一点に意図的に力を集中させて割る行為であり、卵全体で衝撃を受け止める今回の落下実験とは意味が異なります。
調理用に卵を割る場合には横からの方が効率的ですが、落下衝撃に対しては横向きの方が全体で力を吸収でき有利なのです。
研究者らも「料理の際に卵を横から割るのは衝撃に耐えるのとは違う」と指摘しており、日常感覚と科学実験の結果の違いを丁寧に説明しています。
また、この知見は日常生活でもちょっとした応用が考えられます。
例えばゆで卵を作る際、沸騰したお湯に卵を入れるときには卵を横向きにしてそっと沈めると、殻にヒビが入って中の白身が飛び出してしまうリスクを減らせるかもしれません。