しかし、「3年ほど前から、本当に縦向きが最強なのか疑問に思い始めた」とコーエン准教授は振り返ります。

そこで研究室に残っていた卵を使い、手探りでいくつか実験してみたところ、「縦向きの方が硬いと確認できると思っていた」のに「データを見たらはっきりしなかった」といいます。

この思いがけない結果に研究チームの好奇心に火が付き、カジュアルな問いかけだったものが本格的な研究プロジェクトへと発展しました。

卵の落下方向による割れやすさの違いを定量的に調べ、直感と実際の力学特性の食い違いを明らかにすること──それが本研究の目的となりました。

“卵は横が強い”衝撃の一報

“卵は横が強い”衝撃の一報
“卵は横が強い”衝撃の一報 / Credit:clip studio . 川勝康弘

研究チームは、卵の強度を比較するために2種類の実験を行いました。

一つは「静的圧縮試験」で、卵を固定してゆっくり押しつぶし、ひびが入るまでに要する力(強度)や殻の変形のしやすさ(剛性・靭性)を測定するものです。

もう一つは「動的落下試験」で、実際に卵を一定の高さから落として割れる確率を比較しました。

まず静的圧縮試験では、卵を縦向き(尖端か底が上下)と横向きにそれぞれセットし、少しずつ力をかけて押していきました。

その結果、殻にひびが入り始めるまでに必要な力は縦向き・横向きでほとんど同じであることが分かりました。

実際、およそ45ニュートン(約4.6kg重)の力で、どちらの向きでも殻にヒビが入ったのです。

縦向きだから特別に強いというわけではなく、「卵の強度(割れる直前に耐えられる力)は向きに関係しない」ことが示されました。

しかし、重要なのはその割れ方の違いでした。

横向きの卵は、割れる直前に縦向きよりも大きく変形していたのです。

言い換えれば、同じ力を加えても横向きの方が殻がたわんで衝撃を受け止める余裕がある(=しなやか)ことを意味します。

研究チームは卵の「赤道」にあたる側面部分(中央の膨らんだ帯状の部分)の方が柔軟であるため、この部分から力を加えた方がエネルギーを多く吸収できるのだと考察しています。