そこでは「恐怖の顔を見つける速度が特別に遅れる」「怒った表情だけやたらと目につく」といった特徴的な偏りは確認されず、暴力犯と対照群で顕著な差が見られませんでした。

続く無表情から徐々に感情を帯びていく顔を見せられたとき、暴力犯が恐怖や怒りの表情を認識するのが極端に遅れたり早すぎたりすることはありませんでした。

これらの結果は、「暴力的な人はそもそも恐怖表情を読み取れない」という従来の仮説とは相容れませんでした。

ところが、異なる結果が見られたのは、曖昧な顔を見せて「これは何の感情に見えるか」を回答させる課題でした。

たとえば「50%怒り+50%幸せ」のように解釈が難しい表情を提示した場合、暴力犯は対照群に比べてそれを「怒っている」と回答する割合が有意に高まりました。

特に自己申告の攻撃性が強い人ほど、この曖昧な顔を「怒りだ」と決めつける傾向が顕著でした。

一方、サイコパス傾向との間には明確な関連が見つかりませんでした。

つまり、恐怖顔を見逃すような視覚認知の障害は示されなかったものの、「相手が怒っているに違いない」と解釈してしまう認知バイアスが暴力性と結びついていることがうかがえます。

研究者たちは、暴力行動の背景には恐怖表情の読み取りミスではなく、このような「敵意帰属バイアス(怒りを見出しやすい)」が大きく関与している可能性を指摘しています。

悪役の「何見てんだテメー」というセリフは実は悲しい

悪役の「何見てんだテメー」というセリフは実は悲しい
悪役の「何見てんだテメー」というセリフは実は悲しい / Credit:Canva

この研究は、暴力的行動の背景にある認知メカニズムについて意外な真実を明らかにしました。

以前から囁かれていた「暴力犯罪者は他人の恐怖を感じ取れない」というイメージは否定され、むしろ「他人の顔に自分への敵意を見出しやすい」という偏った物の見方が浮かび上がったのです。

では、なぜこのような怒りバイアスが生じるのでしょうか。