見られることは「自分が評価されている、欠点を探されている」という不安を呼び起こし、それを“侮辱”や“軽視”と読み替えて怒りに転化してしまいます。これは自己肯定感を保つための“防衛的攻撃”ともいえます。
さらに怒りや恐怖で生じる生理的覚醒(心拍・筋緊張など)が高い人は、認知的再評価よりも即時反応を選びやすく、衝動制御が利きにくい状態にあります。
視線を挑戦サインとして“視覚的に捉えた瞬間”に闘争モードへスイッチし、「何見てんだ」と発するのも、この生理的スピード反応が関与していると考えられます。
そう考えると「何見てんだテメー」というセリフには当事者の低い自尊心や周りの評価に敏感過ぎる性質、そして今回の研究で明らかになった「50%怒り+50%幸せ」のような顔で見られることでさえ自分への敵意と感じてしまう、そして感じるような環境で育てられてしまったという悲しい背景が隠れているのかもしれません。
このように個人の経験と気質が相まって、怒りバイアスが強化されていく可能性があります。
ただ今回の発見が重要なのは、原因が「恐怖の認知障害」でなく「敵意の誤検出」だとすれば、対策の立て方も変わってくるためです。
もし暴力的な人たちが本当に他人の恐怖表情が分からないのだとしたら、それを治すのは容易ではありません。
しかし本研究が示すように「解釈のクセ」など誤検出の問題であれば、アプローチは比較的取りやすくなります。
すなわち「曖昧な顔は敵意ではないこと」などを認知行動療法的な手法によって修正していくことで、攻撃的な振る舞いを和らげることが期待できるのです。
実際、研究者らも敵意帰属バイアスの修正は十分可能だろうと指摘しています。
「敵意的な解釈傾向は、比較的簡単な方法で減少させられるという初期証拠も得られています」と述べられているように、コンピューターを使ったトレーニングやカウンセリングによって、曖昧な表情をポジティブに解釈する練習を重ねれば、少しずつ「怒りバイアス」を緩和できるかもしれません。