例えば、青年期の非行少年を対象に行われているプログラムでは、曖昧な顔写真を見せて「これは怒っていない」とフィードバックする訓練で攻撃衝動が減ったとの報告もあります。

このような認知バイアス修正は比較的短期間・低負担で実施できるため、将来的には暴力的傾向のある人々への更生プログラムや、攻撃性の高い子どもへの予防的介入に役立つ可能性があります。

研究チームも、今回明らかになった怒りバイアスが「攻撃性の一般的なメカニズム」であることを踏まえ、少年期からの予防やバイアス低減の訓練法について今後研究を進める必要性を強調しています。

もちろん、この研究にも限界はあります。

対象が男性受刑者に限られており、サンプル数も決して多くはないため、結果を一般の暴力傾向者や女性にもそのまま当てはめてよいかは慎重な検討が必要です。

それでも、本研究は暴力犯罪者の感情認知に関する通説に一石を投じる重要な知見を提供しました。

恐怖表情認知の障害ではなく、曖昧な表情に対する解釈バイアスこそが問題である――この視点は、攻撃的な行動を示す人々への見方を大きく変えるとともに、彼らへのアプローチに新たな希望をもたらすものです。

顔に浮かぶかすかな不安や戸惑いの表情を「敵意」と誤解せずに済むようになるとき、暴力の連鎖を断ち切る糸口が見えてくるのかもしれません。

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元論文

Perception of emotional facial expressions in aggression and psychopathy
https://doi.org/10.1017/S0033291724001417

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。