怒っていないはずの人の顔を見て「この人は怒っている」と思い込んでしまう――。
ドイツのテュービンゲン大学(UT)で行われた研究によって、暴力的な傾向を持つ人々には、そんな怒りへの早とちりとも言える認知バイアスがある可能性が、新たな研究で示されました。
この発見は、従来有力だった「暴力犯罪者は他者の恐怖表情を認識できないため攻撃的になる」という仮説に異議を唱え、
代わりに曖昧な表情を敵意(怒り)と解釈してしまう偏りこそが攻撃性に関係していることを浮き彫りにしています。
恐怖の読み取り障害ではなく敵意を読み込みやすい認知バイアスこそが攻撃性の核心かもしれない――この発見は私たちの暴力理解をどのように塗り替えるのでしょうか?
研究内容の詳細は『Psychological Medicine』にて発表されました。
目次
- “恐怖の欠落”神話を再検証する
- 暴力犯の脳では「恐怖の認知症」ではなく「敵意の誤検出」が起きている
- 悪役の「何見てんだテメー」というセリフは実は悲しい
“恐怖の欠落”神話を再検証する

私たち人間は、相手の表情から感情を読み取ることで、相手の意図や状況を推し量り、適切に反応しようとします。
ところが暴力的な行動に走る人は、この感情読み取りのプロセスにどこか特徴的な違いがあるのではないかと、心理学者たちは長年考えてきました。
特に議論となってきたのが、次の2つの仮説です。
1つ目は恐怖感情認知の障害仮説(IES理論)
他者が見せる「恐怖」の感情シグナル(怯えた表情など)を暴力的な人はうまく認識できないために、
相手が恐れていても気付かずに攻撃をやめられないのではないか、という考えです。
実際、過去の研究では反社会的傾向のある人々やサイコパス傾向のある人が、
他人の恐怖表情の認識に苦手意識を示すケースが報告されていました。