この理論では「恐怖などの弱さを示す表情に気付けないこと」が、
攻撃衝動の抑制失敗につながると説明します。
2つ目は敵意帰属バイアス仮説(HAB理論)
暴力的な人は相手の意図を過剰に敵意的だと解釈しやすい、という考えです。
つまり、表情がはっきりしない曖昧な場合でも「この人は自分に敵対的=怒っているに違いない」と思い込んでしまう偏りがあり、
それが先制攻撃や過剰な攻撃性につながるというものです。
過去のいくつかの研究では、攻撃的な人ほど怒りの表情に敏感だという結果も報告されており、
これは敵意帰属バイアスの存在を示唆するものとして議論されてきました。
これら二つの理論は真逆のメカニズムを提案しており、
暴力的行動の原因理解や介入方法にも大きな影響を及ぼします。
恐怖表情の認識障害が原因であれば、
暴力的傾向を抑えるには恐怖など弱さを示すサインを読み取る訓練や感受性を高める治療が考えられます。
一方、敵意の誤解が原因であれば、
認知の偏りを修正して「相手は自分に敵対していないかもしれない」と解釈できるよう支援することが有効かもしれません。
研究チームはこの論争に決着をつけるべく、新たな実験的検証を行いました。
暴力犯の脳では「恐怖の認知症」ではなく「敵意の誤検出」が起きている

研究者たちは、ドイツの刑務所に収容中の暴力犯罪者65名(全員男性)と、年齢をそろえた男性対照群60名を対象に、恐怖や怒りの表情をどのように処理するかを詳しく調べるため、合計4種類の課題を用意しました。
受刑者グループの中にはサイコパス評価(PCL-R)で高得点を示した者も21名含まれていました。
最初の2つの課題では、複数の顔写真の中から特定の顔を素早く探し当てたり、その表情をできるだけ正確に識別したりするよう求められました。