日本のストーカー規制法は2000年の施行以降、2013年・2016年・2021年と改正を重ね、警告なしでも禁止命令を出せるようにする、GPS追跡行為を規制対象に加える等の強化が図られてきました。

しかし法律でどれだけ枠組みを整えても、現場でそれを適切に運用する人員と体制がなければ絵に描いた餅になってしまいます。

実際、神奈川県警ではストーカーやDVなど人身安全に関わる事案を扱う専門部署「人身安全対策課」はあるものの、各警察署には専門の「人身安全係」が置かれていないと言われます。

多くの都道府県警(警視庁や愛知県警など)では各署の生活安全課にストーカー・DV対策の専任担当者を配置しています。

しかし神奈川県警では防犯係の数名が他の業務と兼務でストーカー案件も抱える状態で、「1人で全部を回すのは無理がある」という内部の告発も明らかになりました。

専門スタッフと十分な人手を欠いた組織では、どうしても対応が後手に回り、被害者のSOSが構造的に届きにくくなってしまいます。

これは決して神奈川県警だけの問題ではなく、全国的にも人員不足は深刻です。ストーカー事案対応の最前線である生活安全部門に十分な人員と訓練を施さなければ、現場警察官の負担が大きすぎて迅速・的確な対応は困難です。

第三に、手続き面・法制度の課題です。

警察の怠慢が起きる背景には、現行法制度の限界も影響しています。ストーカー規制法は施行以来何度か改正され、EmailやSNSでのつきまとい行為やGPS追跡行為の規制強化など改善が図られてきました。

しかし法律の運用面で、被害者の申告がなければ警察は警告すら出せない仕組みや、禁止命令を出すハードルの高さなどが指摘されています。

被害者が「被害届を出すほどではない」と迷っている段階でも、本当は介入が必要なケースがあります。

現在は各都道府県警でストーカー・DVについて事前相談を受け付ける窓口も設けられており、事件化の有無にかかわらず幅広く相談を受理して未然防止に努める試みが始まっています。