研究者の指摘によれば、警察官の中には「明確な身体的暴力が伴わない限り深刻ではない」「ストーカーは赤の他人からの執拗なつきまといで、元恋人間のトラブルは私人間のもめ事」という誤った思い込みを持つ者もいるといいます。
こうした認識の偏りから、被害者の訴えが「痴話喧嘩」や「男女間のもつれ」に過ぎないと軽んじられたり、被害者が過敏に騒いでいるだけだと受け取られたりしてしまうのです。
実際、イギリス・ウェールズの調査では「警察は加害者が物理的な暴力に及んで初めて本格的に介入する傾向がある」と指摘されています。
実際、警察庁はストーカー事案を「人身安全関連事案」として位置付け、被害者の生命身体に危険が及ぶ恐れがあるものと認識するよう通達しています。
しかしそれが末端の警察官にまで浸透しきっていない場合、危険性の高い兆候を見逃すことにつながります。
また、被害者の心理状態や加害者の異常な執着心に対する専門的知識の不足もあります。ストーカー加害者にはしばしば強い執着や支配欲求があり、警察からの警告程度では行動が止まらないケースも少なくないと報告されています。
にもかかわらず警察官が「警告したからもう大丈夫だろう」と安易に考えてしまうと、実際には陰で着々と犯行準備が進んでいるといった事態にもなりかねません。
対応にあたる警察官自身へのカウンセリングや心理学的研修、専門機関との連携強化が不可欠であると指摘されています。
第二に、警察組織内の制度・リソースの問題も無視できません。
ストーカー事案の相談件数は日本で年間2万件前後と高止まりしており、一方で各警察署が抱える人員や専門知識には限りがあります。
専門の「ストーカー対策部署」やストーキング行為のリスク評価ツールが十分整備されていないと、対応はどうしても後手に回りがちです。
「警察は事件が起こってからしか動かない」と揶揄されるように、現在の制度では実際に法に触れる事態にならなければ強制的な介入(逮捕や捜索など)が難しい側面もあります。