利益の出る事業を売り苦しい事業の立て直しを図るなかで、「社長交代」という最終手段に踏み切る
事業継続への綱渡りを続ける中、2020年夏にはファストフードスタイルで廉価にステーキやハンバーグを提供する「ペッパーランチ」事業の売却に踏み切った。
「ペッパーランチは7割の店舗がフランチャイズによる運営でしたので、売上高はいきなり!ステーキには及ばないものの、店舗も従業員も抱えない分、収支は良好でした。この売却で85億円の資金を得て立て直しを続けることができ、本社縮小による経費節減と原価率のさらなる見直し、早期退職者の募集と手を打っていきました。もちろんコストカットばかりでなく、販売促進とサービス向上も継続して取り組んでいかなければいけません。そのためにも、従業員の給料だけは絶対に手を付けないことを誓いました」
こうして2022年まで地を這うように立て直しを進め、この間にコロナが落ち着いてきたこともあり、ようやく前向きに会社の将来を考えられる段階になってきたという。ここで、創業者である邦夫社長と、当時CFOを務めていた健作氏の間で、意見の食い違いが表面化することとなる。
「前社長は、以前のように高原価・低価格のメニューで再度打って出たいという意見でした。これに対して、私は着実に利益を出す体制を作るため、既存店の改善に集中したいと主張しました。現実に沿ったコストコントロールと店舗運営の向上、従業員のモチベーションアップといった、地道な取り組みを続けることが重要だと考えていたのです。
コロナ禍でも少しでも多くのお客様にご来店いただけるよう、メニューアイテム数を増やしていたことに加え、為替が円安に振れていくことで、仕入れコストは以前より増加していました。この状況でもう一度薄利多売に振った場合、どれだけ売上げが伸びれば採算が取れるのか? やってみましょうということで、前社長の音頭取りによって、2022年夏に人気商品のワイルドステーキ150gを、1000円という破格値でお出ししたのです」
当然のことながら、来客数は大幅に伸びた。売上げも4割増となったものの、結局は赤字価格なので、売れれば売れるほど赤字が大きくなってしまう。いずれスケールメリットが出て利益はついてくるという前社長と、適正な価格で利益を確保しながら従業員の協力を得て、時間をかけて構造改革を推進したい健作氏の間で、意見の溝は結局埋まることはなかった。
「最後の最後はもう、ひたすら説得です。対立とか喧嘩とかそういう次元ではなくて、要は次失敗したらもう会社は持たないと。とにかく、走り出した黒字転換への道筋を断ち切るわけにはいかないという思いを訴えて、何とか2022年夏の社長交代にこぎつけたわけです。現在、前社長が弊社の株式を5%程度保有していますが、弊社での肩書きは一切なく、経営にはまったく関わっていません。親子ですから雑談ぐらいはしますけどね」