「いきなり!ステーキ」を運営するペッパーフードサービスが2月に発表した2024年12月期の決算にて、6期ぶりに本業の儲けを示す営業損益が黒字に転換したことが話題を集めている。コロナ禍で街から人の姿が消え、ECの利用が急速に拡大した半面、対面による消費者向けサービスは大きなダメージを受けた。その代表格が飲食店だが、なかでも同社は深刻な苦境にあえいでいた。創業社長によるある意味ユニークな販促活動が、SNS上で揶揄を含んだ注目をたびたび集めることもあり、一時は「閉店ラッシュ」「ブーム終焉」といった報道も目立っていた。実際のところ、その業績はコロナ以前の2019年から急降下し、5期連続の営業赤字に落ち込んでいたのだ。そんな同社が立ち直ったきっかけや取り組みに迫るべく、2022年に経営のバトンを受け取った一瀬健作社長に、この6年間をじっくりと振り返ってもらった。
2019年に迎えた天国と地獄、それは「全国500店体制からの閉店ラッシュ」
同社は1985年の創業から37年にわたり、創業社長である一瀬邦夫氏の手腕によって業績を拡大。2013年に開店した「いきなり!ステーキ」の大ヒットで、2019年には全国で500店体制となるが、そこからの数年はまさに転落という言葉がふさわしい苦難の道のりだった。その渦中において、現社長の健作氏はどのようなことを考え、立て直しに取り組んでいたのだろうか。
「500店体制になったのは年末でしたが、実は2019年の春頃から、各店舗の損益状況が悪化していることはわかっていました。当時、いきなり!ステーキは高原価で質の高いステーキを気楽にお召し上がりいただける店舗スタイルが新しかったこともありましたし、来店回数が増えるほどお得にご利用いただける会員サービス「肉マイレージ」が非常に好評でした。仮に1回のご来店で300gのステーキを召し上がっていただくとして、10回ご来店いただくと3kg達成となり、ゴールドカードが取得できます。特典としてお食事券や誕生日のステーキ無料プレゼント、毎回のドリンク無料などを提供し、多くのファンがついてくださいました。
ただし、この肉マイレージは拡大局面では非常に有効な仕組みなのですが、それが終わったところで、逆に収益への重石へと変わる面があったのです」
当時、いきなり!ステーキの魅力に取りつかれたファンは、およそ3カ月程度でゴールド会員を達成することが多かったという。すると、それ以降はもちろん常連客をつなぐ効果は大きいものの、サービス提供のコストは増えてしまう。結果、肉マイレージが人気化すればするほど、利用1回あたりの利益率は低下していくこととなった。