道中で、今回も様々に示唆に富んだお話を伺うことが出来たが、思い出されるのが、川村さんが初めて新海監督作品をプロデュースした「君の名は。」。同作品以降、「天気の子」「すずめの戸締まり」と、新海作品は、私見では、それまでの作品群(「言の葉の庭」「秒速5センチメートル」より格段に輝きが増したと思う。
川村さん本人から聞いた話も含めて、私が川村さんプロデュースの数々のヒット作の向こう側にあると感じるのが「集合的無意識」とそこから紡がれる「懐かしい未来」だ。集合的無意識は、ユングの有名な言葉だが、逆説的な表現にはなるが、川村さんはそのことをいつも意識しているという。
「君の名は。」は、川村さんも明確に東日本大震災をモチーフにしていると明言しているが、日本国民、いやもしかすると世界中の方々に、頻発する災害・戦争が意識の低層に刻み込まれている。そうした無意識に、懐かしい人を助けたいという祈りにも似た人間のベーシックな感情に訴えかけたのが同作品だ。
同作品中のヒロインの祖母が語るように、当該作をはじめ、「天気の子」にも「すずめの戸締まり」にも、日本古来の神様や伝承を強く意識しての「懐かしい未来」がある。過去と未来、時間が交差し、重なり、我々の“進む先”へと繋がっていく。
「土地の氏神様をな、古い言葉で産霊(むすび)って呼ぶんやさ。この言葉にはふかーい意味がある。糸をつなげることもムスビ。人をつなげることもムスビ。時間が流れることもムスビ。全部、神様の力や。わしらの作る組紐も、せやから神様の技。時間の流れそのものを表しとる。より集まって形を作り、ねじれて、からまって、時には戻って途切れ、またつながり、それがムスビ。それが時間。」
こうした有り様は、我々の先祖や父母たちが大事にしてきた懐かしい在り方にも見えるし、同時に、最近、AI(人工知能)の次として注目されている量子の世界のようにも見える。ニュートン力学だけでは理解できない、ある意味で天才アインシュタインすら理解できなかった(理解しようとしなかった)「量子のもつれ」のような“不思議”は、まさに我々がまだ分かっていない世界、不思議な時の交差を未来に現出させることになるかもしれない。