グローバル神経ワークスペース仮説の核心である「意識の入り際と抜け際に強い点火が起こる」という予測は支持されなかったのです。

最後に「どの領域同士が同期しているか」ですが、解析により前頭部と後頭部(初期視覚野)の間に、高頻度の脳波での同期現象が見つかり、意識状態では前と後ろの脳が特定のリズムで結びついていたのです。(3つ目の脳のどの領域同士が同期して情報をやり取りするか?の答え=前頭葉と結び付きの点でグローバル神経ワークスペース仮説(GNWT)がやや有利)

この前後の結合はグローバル神経ワークスペース仮説が予測するグローバルな情報共有を支持する結果と言えます。

一方、統合情報理論が重視する後部同士の強固な同期(統合現象)はほとんど観測されませんでした。

後部の各領域間で一体となった活動(ネットワークの同期発火)が持続する様子は見られず、せいぜいごく短い一過性の連携に留まりました。

この「後部での持続的な同期の欠如」は統合情報理論にとって大きな誤算で、意識を規定する決定的要素が脳内ネットワークの結合度合いだとする主張に疑問符がつきます。

このように、両理論とも決定打を欠く結果となりました。

予測された「脳内の意識のサイン」は一部しか現れず、かといって相手の理論が全面的に正しいというわけでもないという複雑な結末です。

研究に参加したサセックス大学の神経科学者アニル・セス氏は、「一つの実験でどちらかの理論に決着がつくとは初めから思っていました。

両理論は前提も目指すものも全く異なり、我々の測定法にも限界がある以上、一方が完全勝利することはないでしょう」と述べています。

しかし同時にセス氏は「そうは言っても、この協同研究によって両理論について非常に多くのことが学べました」とも強調し、脳のどこでいつ視覚体験の情報が読び出せるかについて貴重な知見が得られたと評価しています。

実際、本研究によっていくつかの重要な示唆が得られました。