しかし期待と不安の中で分析されたデータは、驚くべきことにどちらの理論にも完全には当てはまりませんでした。
それどころか、統合情報理論とグローバル神経ワークスペース仮説それぞれの予測の一部は裏付けられ、一部は明確に反証されたのです。
まず「意識の内容がどこに表現されるか」については、後部皮質と前頭前野の両方で刺激の内容に関する情報が読み取られました。(1つ目の意識の内容は脳内のどこに表現されるか?への答え=細かな分析により統合情報理論(IIT)がやや有利)
つまり視覚野や側頭葉など後ろの領域にも、前頭の一部(下前頭皮質など)にも、被験者が見ている対象に対応する信号が見つかったのです。
この点は双方の理論の主張と矛盾しません。
しかし、詳しく調べると刺激の細かな特徴(例えば顔がどの向きかなど)は前頭前野からは読み取れないことが分かりました。
顔の大まかな存在は前頭でも検出できても、その向きなど詳細な情報は後部の活動にしか現れなかったのです。
これは「意識の内容は前頭ネットワークで共有される」とするグローバル神経ワークスペース仮説には不利な結果です。
次に「意識がどのように時間的に維持されるか」を見ると、後部の視覚領域では提示された画像の表示継続時間に応じて活動が持続する傾向が確認されました。(2つ目の意識体験はどのように時間的に維持されるか?の答え=前頭葉での点火が確認されず統合情報理論(IIT)がやや有利)
長く見せれば長く、短ければ短く、後頭部や側頭部での応答が続いたのです。
統合情報理論が予測する「意識内容が後部で維持される」現象の片鱗と言えます。
しかしその一方で、前頭前野に期待されたグローバル神経ワークスペース仮説の「オフセット(刺激消失時)の点火」は検出されませんでした。
刺激が現れた瞬間には前頭の活動が高まるものの、消えた瞬間に明確な再活性化は見られず、刺激中も前頭前野の活動は断続的でした。