脳の計測も徹底しています。
被験者の脳活動は、機能的MRI(fMRI)で脳内の血流変化を捉え、脳磁図(MEG)でミリ秒単位の磁場変化を捉え、さらに一部の被験者では脳内電極記録(iEEG)で脳波を直接測定するという、3種類の補完的な手法で観察されました。
これにより、脳のどの部位が活動しているかという空間的な情報から、神経活動の一瞬一瞬の時間的な流れまで、意識に伴う脳の変化を立体的に記録することが可能になりました。
では具体的に、統合情報理論とグローバル神経ワークスペース仮説はこの実験で何を予測したのでしょうか。
両理論の主張を踏まえると、少なくとも3つのポイントで明確に異なる見立てが立ちます。
1つ目は意識の内容は脳内のどこに表現されるか?という点です。
統合情報理論によれば主に後部皮質(視覚野や側頭・頭頂野)に現れるはずですが、グローバル神経ワークスペース仮説では前頭前野を含む広範ネットワークで表現されると考えられます。
2つ目は意識体験はどのように時間的に維持されるか?という点です。
統合情報理論では刺激を見ている間ずっと後部で活動が持続すると予想します。
一方グローバル神経ワークスペース仮説では、意識に入った瞬間と抜けた瞬間に強い活動(「点火」)が起き、その間は一旦沈静化すると予想します。
3つ目は脳のどの領域同士が同期して情報をやり取りするか?という点です。
統合情報理論は後部の脳領域同士がしっかり結合し同期すること(統合)が重要と考えます。
それに対しグローバル神経ワークスペース仮説は、前頭と感覚領域の間で信号がやり取りされ全脳的に情報が共有されることを重視します。
研究チームは、上記のような観点で両理論の予測する「脳活動の違い」を統一実験で検証し、結果がどちらの理論に符合するかを判定しようとしました。
そして得られた膨大なデータを解析した結果――いよいよ両理論の命運が下されたのです。