これは互いに競合する理論の提唱者たちが協力して同じ実験計画を立て、公平な条件でデータを集めて決着を図るという、科学では異例の方法です。

ノーベル賞受賞者の心理学者ダニエル・カーネマン氏が推奨した手法でもあり、複数の仮説が競合する分野で偏見を減らす効果が期待されています。

Cogitateではまず統合情報理論派・グローバル神経ワークスペース仮説派それぞれの研究代表者と、中立の実験担当者たちが一堂に会し、両理論が予測する具体的な違いを洗い出しました。

そして「どんな結果が出ればどちらの理論の勝ちか」を厳密に定義し、実験手順と解析方法を事前登録(プリレジストレーション)しました。

分析は理論提唱者自身は手を触れず中立的に行われ、結果の解釈も事前の合意に従うという徹底ぶりです。

このようにして準備された「対決」は、もはや勝敗よりも科学的検証の質を高めること自体が目的でした。

「この手法の強みは、異なる理論を一緒に“土俵に上げて”検証したことです。勝ち負けを決めるのではなく、科学的検証の水準を引き上げることが目的なのです」と、本研究の共同責任著者であるルシア・メローニ氏(独マックスプランク研究所)は強調します。

意識は知性ではなく感覚の問題なのか?

意識は知性ではなく感覚の問題か?
意識は知性ではなく感覚の問題か? / Credit:Canva

実験自体は2019年に行われ、欧米を中心に256名もの被験者が参加しました。

この種の意識実験としては前例のない大人数で、被験者は世界7つの研究拠点に分かれて協力しました。

全員が同じ視覚課題に取り組みます。

コンピューター画面に人の顔、日用品の物体、アルファベットの文字、無意味な記号といった画像が次々と提示され、参加者はごく稀に出てくるターゲット刺激を検知する以外は、ただそれらを見るだけです。

画像は毎回表示時間が変化し(0.5秒~2秒程度)、意識に上った内容が長く続く場合とすぐ消える場合の両方が含まれるようにしました。