また準備通貨からステップダウンする過程で中国にドル建てGDPで大きく引き離されたら安全保障も何もなくなる。何よりも、いつかマールアラーゴ合意がやってくると諸外国が本気で懸念し始めたら、米国への証券投資などとてもできなくなる。
歴代の財務長官による「強いドルは国益」発言は、財務省の円滑なファンディングのために、まさに第二次ニクソンショック、第二次プラザ合意をやらないコミットメントである。ミラン自身もさすがにジョークが過ぎたと気付いたか、「他人の考えを紹介したもので私の考えではない。トランプ政権の方針を示したものでもない」とあまり触れてほしくなさそうにしている。
とはいえ為替操作批判からも分かるように、米ドル高が米国の製造業を駄目にしたというトランプ政権の被害者意識は本物であるようだ。一方で、トランプ政権の最適関税理論はドル高(相手国の通貨安誘導)を前提にしていたのではなかったか?この矛盾をどう整合させるのか。
米国はいったいドル高とドル安のどちらが嬉しいのか。突き詰めると公約数は一つしかない。「ドル高のまま諸外国から関税を毟るのが嬉しい」のである。間違っても「ドル安に誘導するための武器としての関税」という構図ではない。専業主婦が夫に対して「あんたのせいで私のキャリアがすっかり駄目になって」と言い出したとして、「じゃ働き出しやすいようにユーキャンでTOEICをやるか」となるのか?「この人はお金がほしいのだな」ではないのか。
「マールアラーゴ合意」に対するヘッジ手段は、外貨準備を米国資産から他の市場に移すかゴールドに換えることしかない。ローズガーデン関税から始まる混乱の中で米国がしばしばトリプル安に見舞われたのは、アジア、欧州の投資家による「マールアラーゴ合意」懸念への牽制と示威とも表現できる。
トランプ政権にとって今は「取扱説明書」的にもまだドル高で関税をオフセットするフェーズであるはずで、ドル安を加速させるのはむしろ彼らの見当はずれを助長する行為だ。