またリズムに合わせて演奏する訓練は脳内の神経活動を同期させ、認知処理の効率を上げるとも考えられています。

このように音楽には脳内ネットワークを整える作用(過度な興奮をしずめ必要な部分を活性化するなど)があり、それがADHD症状の改善につながり得るというわけです。

音を楽しみながら集中力アップにつながるなら一石二鳥と言えるでしょう。

もっとも、今回の研究デザインは「長年楽器をやってきた人」と「やってこなかった人」の断面比較であり、音楽が直接これらの能力向上を「引き起こした」ことを厳密に示したわけではありません。

言い換えれば、因果関係の証明には慎重さが必要です。

研究チームも「元々認知コントロールが高めの人が音楽を続けやすかった可能性」を完全には否定できないと認めています。

そこで今後の課題として、たとえばADHDの人に新たに楽器練習を始めてもらい、その前後で認知機能の変化を追跡する縦断的研究が望まれます。

実際に音楽トレーニングを導入してみて、時間の経過とともに注意力や記憶力がどう伸びるのかを観察できれば、因果関係の方向をより明確にできるでしょう。

またADHDの亜型(不注意優勢型か衝動多動優勢型か等)による効果の違いや、楽器の種類ごとの有効性も検討の余地があります。

あるタイプのADHDにはリズム楽器が特に効く、といった可能性も考えられるためです。

さらに神経科学的には、楽器訓練による脳内変化を直接見るため脳画像法を組み合わせることも有益でしょう。

どのように脳構造や機能が変わっていくのかを捉えれば、音楽がADHD脳に与える影響を一層はっきりと描き出せるはずです。

今回の発見は、楽器演奏というアプローチがADHDの新たなリハビリテーション手段になり得る可能性を示唆しています。

もちろん薬物療法や行動療法が第一選択である点に変わりはありませんが、その補完的な位置づけとして音楽を取り入れる価値は十分考えられます。