幼少期から英才教育を受けなくとも、青年期・成人期からの音楽訓練であっても、効果が見込める可能性があるという希望を与えてくれます。
リズムが脳回路を鍛える仕組み

なぜ楽器演奏がこれほど認知機能に好影響を及ぼすのでしょうか。
その理由として研究者らは、楽器練習自体が脳に対する総合的なトレーニングになっている点を指摘しています。
楽器を演奏するには曲に集中し続ける注意力、楽譜や指使いを記憶する記憶力、指先や体の精密な運動協調、そして音や視覚情報を同時に処理する能力など、実に多彩な脳機能をフル稼働させる必要があります。
まさに脳の全身運動と言える活動であり、長年にわたるこうした「認知の筋トレ」が注意や実行機能を司る脳回路を強化するのだろう、とRaz氏らは述べています。
実際、過去の脳画像研究では楽器演奏者の脳構造に一般の人とは異なる特徴が見られます。
たとえば前頭前野(注意や行動制御を担う脳の前部)や小脳(運動制御だけでなく認知面にも関与する領域)に、音楽家特有の構造的な違いが報告されており、これらはいずれもADHDで機能不均衡が指摘される部位です。
音楽訓練によってこうした脳の要所が物理的・機能的に鍛えられ、その結果として認知テストの優位性につながった可能性があります。
加えて、今回の知見は先行研究で考えられていた音楽介入のメカニズムとも合致します。
専門家による包括的レビューでは、音楽活動が計画力・集中力・衝動抑制など実行機能を高め、ADHD児の時間管理やタイミング感覚の発達を助ける可能性があると指摘されていました。
楽器演奏には集中力の持続、複数の感覚の同時処理(楽譜を見ながら音を聞き手を動かす)、練習の繰り返しによる記憶など、多くの認知要素が必要です。
そのため練習によって脳内の注意・実行機能ネットワークが鍛えられた結果がテスト成績に表れたと考えられます。