楽器演奏者グループはピアノまたはギターを少なくとも5年以上継続して習熟している48名で、対照となる非演奏者グループは楽器の正式な訓練経験がない46名です。
両グループは年齢、性別、学歴、社会経済的背景をできるだけ揃え、さらに調査期間中は誰もADHDの薬を服用していない状態としました。
これにより、薬や環境要因ではなく純粋に楽器経験の差が認知機能に表れるかどうかを比較できるよう配慮しています。
全ての参加者は一連の標準化された認知テストを受け、そのスコアで両グループを比較しました。
テストの内容は多岐にわたり、主なものとして次のような項目が含まれます:数字と記号を対応させできるだけ速く書き込む処理速度・注意力テスト(WAIS符号テストに相当)、画面上のシンボルパターンを探す視覚的な注意力テスト、数字の列を記憶して順番どおりまた逆順で復唱する記憶力テスト(数唱)、課題のルールを次々と切り替えて解く柔軟性・マルチタスク能力テスト、そして特定の刺激にだけ反応し他では反応を抑制する持続的注意/衝動抑制テスト(CPT:Continuous Performance Test)などです。
これらにより、注意の持続や処理スピード、作業記憶、認知の柔軟性、衝動の制御といったADHDで課題となりやすい様々な認知機能を測定しました。
結果は明快でした。
ほぼあらゆる指標で、楽器演奏者グループが非演奏者グループを上回ったのです。
まず情報処理速度と視覚的な注意力を測る符号書き取りや記号探しのテストでは、演奏者の方が有意に高得点をマークしました。
これは情報を素早く正確に処理する力や視覚注意の能力が演奏者のほうが優れていたことを示唆します。
また記憶力を調べる数唱(順唱・逆唱)でも演奏者が非演奏者を上回り、ワーキングメモリ(作業記憶)や聴覚的な記憶保持力の強さがうかがえました。
これらの傾向は、これまで一般集団で音楽トレーニングが記憶システムや処理効率を高めるとされた先行研究とも一致しています。