また音楽はリズム(規則的な構造)を持つため、ADHDで散らばりがちな思考を「枠にはめて」あげる役割も果たします。
音楽療法士98名を対象としたある調査では、87%もの療法士が「音楽療法は薬物療法との併用でADHD治療に有効」と考えており、特に行動面(94%)や心理面(89%)、認知面(69%)での改善を目標に掲げていました。
シニア世代でも、新たに楽器演奏を始めることで言語の記憶力など認知機能が改善したという報告があるほどです。
さらにいくつかの研究では楽器ごとにADHDの症状に異なる影響を与える可能性が示されています。
特に「鍵盤系(ピアノ)が注意 ・ワーキングメモリの改善に効果があり」「打楽器(ドラム)が衝動・タイミング制御に効果がある」 というペアは複数のデータで再現されています。
鍵盤や複雑なコード進行は 両手協調・譜読み・聴覚‐視覚‐運動のマルチタスク を同時に要求します。
結果として前頭前野‐小脳ネットワークを長期的に鍛え、「集中 → 記憶保持 → 制御」 の一連を底上げしていると解釈されます。
またADHD ではミリ秒〜数秒単位のタイミング誤差が衝動的ボタン押しや“フライング発言”につながるとされます。
そのためドラムやメトロノーム練習でリズム誤差を修正すると、脳内の運動時計&抑制回路(補足運動野・基底核)が再調整されるため、衝動行動が減ると考えられます。
しかし楽器演奏という面においては、ADHDへの効果を調べた研究はまだまだ限定的でした。
そこで今回イスラエルのSivan Raz氏らは「楽器の長期訓練がADHD成人の認知能力に関連する改善をもたらすか」を検証することにしました。
ADHD治療に足りなかったのは“リズム”

研究チームは18〜35歳でADHDと正式に診断された若年成人94名を募集し、楽器演奏歴のあるグループと演奏経験のないグループに分けました。