まず、「中国政府が懲罰的高率関税導入策に怒って、米国債の投げ売り、米ドル売り・人民元買いを進めた」という説は、棄却して差し支えないでしょう。

4月7~9日という決定的な期間に、赤の折れ線で示した人民元の対米ドルレートは一貫して下がっています。大規模な米国債売り・人民元買いはなかったはずです。

なぜなかったかというと、習近平主席を中心とする中国共産党首脳部は今、人民解放軍幹部将校たちとの暗闘で手一杯で、この絶好のチャンスを生かせなかったのだろうと思います。

「60倍という素人運用並みの危険なレバレッジをかけて米国債を買い持ちしていた農林中央金庫が、懲罰関税で米国債の金利が下がり価格は上がると見ていたのに逆目に出たので、含み損のさらなる拡大を恐れて持っていた米国債を投げ売り」という説も人気があります。

しかし、もしこの米国債金利急騰・価格急落が農中主導だったとしたら、週明けの月曜日からすぐ始まっていたというのは、ちょっと反応が早すぎるという印象があります。

米国債市場の最大勢力はもちろんアメリカの大手金融機関です。その中には、ベーシス取引というかなり危ない取引の専門家たちも所属しています。

国債現物と先物のあいだに存在するわずか4~5ベーシスポイントほどの差から、大手金融機関にふさわしい規模の利ざやを稼ぐために、自己資金1に対して100ぐらいの借入を起こしてレバレッジで儲けようとする人たちです。

つまり農中の運用担当者がおそるおそるマネをしていた取引スタンスのお手本になっていた人たちなのです。私は、このベーシス取引のスペシャリストたちが、一斉に米国債現物を投げ売りしたのが、今回の金利高騰・価格暴落のきっかけだったと見ています。

なお、このベーシス取引は、次回『ついに始まったアメリカ株大崩壊 後篇』の主要テーマのひとつとなりますので、ぜひことばだけでも覚えておいていただきたいと思います。