課題と留意点: 最大の課題は移行コストと財源問題です。基礎年金の税方式化には巨額の安定財源が不可欠となります。前述のとおり、最低保障年金(月7万円)を全額税で賄うには将来的に消費税を7~8%追加で引き上げる試算もあります​bloomberg.co.jp。実際にどの程度の税負担増になるかは給付水準や将来の高齢者数によりますが、相当規模の増税や予算措置が必要なのは確実です。もっとも改革案1では厚生年金の積立化により将来の給付費自体は大きく削減されるため、長期的には基礎年金に集中した財源手当で済む点で改革案2より負担は読みやすいとも言えます(後述のように改革案2は厚生年金給付を無くす代わりに基礎年金や生活保護の給付水準次第で財政負担が増減します)。どのみち消費税だけに頼るのではなく、複数の財源組合せ(例えば消費税+所得税や資産課税強化、あるいは年金目的国債の発行と将来の一般財源充当)も検討すべきでしょう。次に積立方式への転換によるダブル負担の問題があります。移行期の現役世代は、自らの積立口座への拠出をしながら同時に現存する高齢者への年金給付も支えねばなりません。保険料を全て積立に振り向けてしまうと現在受給している高齢者への給付原資が不足します。このため移行初期には国庫から相当の繰入れ(いわば“つなぎ融資”)が必要となり、その財源確保が課題です​bloomberg.co.jp。スウェーデンは従来積み立てていた年金積立金を充当してNDC導入の穴埋めをしましたが、日本でもGPIFの積立金(積立金残高約200兆円)や年金特別会計の活用が考えられます。ただGPIF資産はすでに将来のマクロスライド調整期間の支えに充てる前提であり、使いすぎれば後年の基礎年金財政に影響します。現実的には、世代ごとに段階移行するスライド移行(例:一定年齢以下は保険料の一部を積立口座拠出、それ以上は従来通り賦課拠出)や、積立移行初期は保険料の一部を賦課分に充てつつ徐々に積立比率を上げていく方法などが考えられます。こうしたハイブリッド期間を設け負担の山をならす工夫が不可欠です。