狙いと利点: このモデルの狙いは明確で、公的年金制度の簡素化と財政中立化です。基礎年金のみの一階建てにすることで年金制度は極めて分かりやすくなり、行政コストも削減されます。全ての国民が「税負担により最低限の年金をもらう」という一元的な仕組みになるため、現行のような被用者と自営業者の区分もなくなり(基礎年金に統合)、年金未加入者も発生しません。無年金・低年金問題の抜本解消にもつながります。財政面では、将来的に公的年金給付は基礎年金部分に限定されるため、長期推計上の年金財政は非常に安定します。厚生年金給付(報酬比例部分)を廃止することで、公的年金の対GDP支出は現行計画より大幅に圧縮される見込みです。実際、同様のフラット型制度である英国・ニュージーランドでは、公的年金給付の対GDP比は約5~7%程度に収まっています(日本は将来さらに上昇し得る9~10%超)。政府の役割は高齢者最低所得の保証に徹し、それ以上は各個人・家庭・コミュニティが担う自己責任原則を明確にすることで、社会全体としての年金財政リスクを縮小できます。政治的にも、最低保障部分のみを扱えばよいため論点が限定され、年金政策がシンプルになります。労働市場への影響という観点では、現行の賃金比例保険料は実質的に働く人への税(人件費コスト)となっていますが、これを廃止することで労働コストが下がり、雇用促進や賃金上昇につながる可能性があります(もっとも同時に消費税等が上がればトレードオフですが)。また積立による資産形成が国民的に進むことで、株式市場の活性化や個人の金融リテラシー向上、副次的には将来的な相続財産の増加による資産循環など、経済面でプラス効果も考えられます。何より、公的年金への過度な期待を改め「公は最低限を保障、あとは自助努力で備える」という社会的合意が得られれば、若年世代も将来世代負担への不安から解放され、各自のライフプランに応じた老後準備に取り組みやすくなるでしょう。英国のように公的年金を一本化して透明性を高めた上で、自動加入や税優遇策で私的年金への参加を促す枠組みは、政策的にも十分機能し得ることが示されていますcommonslibrary.parliament.ukcommonslibrary.parliament.uk。このモデルは「ベバリッジ型」(一律給付)への大胆な転換であり、現行の社会保険方式を抜本的に見直すものですが、高齢化が極度に進展した日本において一考に値するオプションです。
関連記事(提供・アゴラ 言論プラットフォーム)
今、読まれている記事
もっと見る