提案する2つの改革案はいずれも長期的に公的年金財政の大幅なスリム化・安定化をもたらしますが、移行期の財政負担や必要な税財源規模は大きく異なります。ここでは両案の財政的影響を概算し、その持続可能性への寄与を評価します。
まず基礎年金の税方式化に伴う財源需要ですが、政府の社会保障会議試算によれば最低保障年金(月7万円)を全額税負担にするには消費税率で7~8%相当の追加財源が必要とされていますbloomberg.co.jp。仮に基礎年金給付総額を年約30兆円規模とすると、消費税1%あたり約2.8兆円の税収(現在)で計算して7~8%増が必要という試算は妥当なオーダーです。この増税幅は現行消費税10%に上乗せすると計17~18%に達し、家計や経済への影響も無視できませんbloomberg.co.jp。改革案1・2とも基礎年金税方式化を採る以上、この規模感の財源手当が共通の課題となります。ただし将来的に厚生年金給付が縮小・廃止されていけば、その分国庫補助や保険料負担が減るため、社会全体としては財源付け替えの側面もあります。改革案1では、積立方式に移行後は賦課方式厚生年金給付がほぼ消滅するため、基礎年金に専念した財源で長期均衡が取れるようになります(ただし積立金の運用損失が出た場合に公的救済が必要となれば別途財政リスクがあります)。改革案2では、厚生年金給付が無くなる一方、最低保障として基礎年金をどこまで手厚くするかで財政負担が変動します。例えば英国程度の水準(所得代替率25~30%)に抑えれば消費税増は5%程度で済む可能性がありますが、ニュージーランド並みに厚くするなら10%以上の増税も視野に入ります。したがって改革案2の財政負担は設計次第で振れ幅があります。
移行期の追加的国庫負担は、改革案1では積立移行コストとして顕在化し、改革案2では既得権給付の補填コストとして発生します。積立移行コストとは、現役世代の保険料を積立に振り向けた分だけ生じる現行給付財源の不足額です。仮に厚生年金保険料収入(年約30兆円超)を一部でも積立に回せば、その分を税で補わないと現在の年金給付が支えられません。極端な試算として、厚生年金保険料の半分(労使合計9%相当)を積立に回した場合、毎年15兆円規模を国庫で負担する必要が生じます。これを例えば20年かけて国債で手当てすれば累積300兆円規模となり、前述の専門家指摘通り「数十兆円~数百兆円」の国庫投入が必要との試算に合致しますbloomberg.co.jp。現実にはそこまで急激に積立化しないにせよ、何らかの形でこの移行コストを捻出する財政計画が必要です。一方、改革案2の既得権補填コストは、賦課方式厚生年金を維持する期間中に毎年生じます。新規加入者ゼロで被保険者数が減っていく中でも既存受給者への給付は続くため、賦課方式を維持すれば保険料収入だけでは足りず国庫補填が増大します。いずれの場合も、移行期の国債発行や他歳出削減による対応が避けられず、財政ルールとの調整や世代間負担のあり方について慎重な議論が必要です。とはいえ、これらは移行期の一時的コストであり、長期的には両改革案とも公的年金の財政は安定軌道に乗ります。改革案1では積立方式で将来世代の公的負担は基礎年金部分に限定されますし、改革案2では公的年金給付自体が基礎年金のみなので給付負担が明確です。いずれも年金財政の予見可能性が高まり、将来世代にツケを回さない仕組みとなる点は大きなメリットです。これはスウェーデンの自動安定化や英国の年金委員会方式とも通じる「持続可能な年金」の要諦であり、本質的に重要なポイントと言えます。