最後に、以上の年金改革案を政策立案・実行するにあたっての横断的課題と、その対策・実施方策について述べます。

1. 国民的合意形成と制度の脱政治化: 年金制度の抜本改革は国民生活に直結するため、社会的合意なくして断行は困難です。特に改革案2のように自己責任を大きく打ち出すモデルは、「公的年金はどこまで面倒を見るべきか」という価値観の転換を伴います。政府は国民に対し現行制度の問題点や将来見通しをデータで丁寧に示し、改革の必要性と選択肢をわかりやすく説明する努力が不可欠です。その上で、超党派の年金改革委員会(英国のターナー委員会のような)を設置し、中立的立場の専門家や各党代表者が参加する場で議論を深めることが有効でしょう。利害関係者(労使や高齢者団体等)は必要に応じヒアリングを行いつつも、最終的な制度設計は将来世代を代表する視点を持ったメンバーで決定することが望ましいと考えます​ier.hit-u.ac.jp。こうしたプロセスを経て得られた改革方針については、できれば与野党間で合意し長期にわたり実行する枠組みを構築します。年金改革を政権の度に翻すことは国民の不信感を招くため、合意事項は年金基本法(仮称)として成文化し、将来の見直し手続きも予め規定しておくなど制度を政治から一定距離を置いて運営できるようにします。例えば支給開始年齢の引上げルールを法律に盛り込み、経済指標や平均余命に基づき自動調整すると定めておけば、都度の政治判断なしに持続可能性を確保できます​nensoken.or.jp。スウェーデンやオランダではこのように法律で調整ルールを設定する手法がとられています。日本でもマクロ経済スライドがありますが、将来はさらに支給開始年齢の連動引上げや基礎年金国庫負担率の機動的見直し(税収状況に応じた調整)など、制度を自動安定化させる仕組みを強化すべきでしょう。年金制度の基本的役割(最低保障なのか所得維持なのか)について国民的な理解を得ること、そして将来にわたり政治的思惑で大きく方針転換されない安定した制度枠組みを築くことが、改革成功の前提条件となります。