4. 社会保障全体との整合性: 年金制度改革は他の社会保障制度や労働政策とも密接に関連します。基礎年金の税方式化は医療・介護など他分野の財源配分にも影響を与えるため、社会保障給付全体の中での年金給付水準の位置づけを再定義する必要があります。例えば「基礎年金+生活保護+医療介護」で高齢期の最低保障を包括的に設計し直し、その上で私的年金や就労(高齢者の就労促進策とも連動)によって中間層以上の生活水準を維持する、といった全体像を示すことが求められます。また税方式化により年金と生活保護の境界が曖昧になる部分も整理が必要です(最低保障年金と生活保護の水準差・資格要件の整理など)。さらに積立方式の導入は金融市場への資金流入を大きく増やすため、国内資本市場の発展戦略や投資先(例えばESG投資や国債消化など)との整合も考慮し、経済政策との一体性を図ります。年金改革が年金領域だけで閉じず、高齢者の生活全般を支える包括的政策パッケージ(住まい、医療、介護、就労などの政策とセット)として提示されれば、国民の理解と支持も得やすくなるでしょう。
おわりに
日本の年金制度は今、大きな岐路に立っています。河野太郎氏の提起したような税方式化・積立方式化の議論は、一見過激にも思えますが、英国やスウェーデン、ニュージーランドなど諸外国の先行事例を検証すると、それぞれ合理性と課題が浮かび上がります。本レポートでは2つの改革シナリオを提示しましたが、いずれも現行制度の延長線上にはない大胆な転換を含むものです。もちろん実現には克服すべきハードルが多く存在します。しかし、少子高齢化の進行速度を考えれば、もはや現行の枠組みの微調整だけでは将来への不安を拭えない段階に来ています。年金は世代と世代をつなぐ社会契約です。だからこそ政治的リーダーシップと国民的議論によって、新たな契約内容を早期に定め直す必要があります。本稿で検討した「税方式による最低保障充実」と「公的/私的役割分担の見直し」という方向性は、日本の年金制度を持続可能で公正なものに再設計する有力な選択肢です。財政規律と高齢者の安心を両立させた制度構築に向けて、海外の知見も活用しながらさらなる議論が深まることを期待します。そして将来世代に胸を張って引き継げる年金制度を築くために、今こそ大胆な一歩を踏み出す時と言えるでしょう。