2. 私的年金制度の整備と信頼醸成: 改革案1・2いずれにおいても、私的年金(企業・個人)の役割が格段に増すため、その制度的整備と普及が死活的に重要です。まず企業年金については、加入拡大とポータビリティ向上が課題です。中小企業従業員や非正規社員にも確定拠出年金(企業型DC)への自動加入を義務づける、企業年金のない企業には中小企業向け共通基金(現在のiDeCo+や中小企業向けDC制度の拡充版など)への加入を促す、といった措置が必要です。加えて転職・離職時にも企業年金資産が個人口座に集約・持ち運べるよう、企業年金と個人型年金(iDeCo等)の制度接続を柔軟にしていくことも大切です。個人年金については、現行のiDeCoや積立NISAのさらなる拡充(加入対象拡大や拠出限度額引上げ)を図り、若年層から老後資金づくりを始めるインセンティブを強めます。同時に、金融教育・年金教育の充実も不可欠です。学校教育や職場研修でライフプランニングや資産形成について教える機会を設け、国民が主体的に老後を設計できるよう支援します。さらに、私的年金への信頼を高めるため適切な規制と監督を行います。具体的には、年金商品に係る情報開示の徹底、過度な手数料の禁止、運営機関の財務健全性確保のための監督強化等です。私的年金は公的年金に比べ元本保証がなく不安という声もありますが、英国NESTのように政府が低リスク運用の器を用意すれば安心感が増しますし、規制当局が健全な市場を維持すれば過度な心配は不要となります。国民の大切な老後資金を預かるという意識のもと、金融庁等が中心となって私的年金市場の信頼性向上に努めることが重要です。
3. 移行期の経過措置と特例対応: 大きな制度転換には必ず経過措置が伴います。改革案1の場合、積立口座への拠出開始世代や移行スケジュールを明確にし、移行世代(例:○年生まれ~○年生まれ)の年金計算方法(従来賦課分+積立分の按分計算など)をわかりやすく周知する必要があります。改革案2の場合、厚生年金廃止による経過措置として、一定年齢以上の現役世代には従来通り報酬比例年金を保障する一方、それ未満の世代には基礎年金のみ(+私的年金)となることを事前に通知し、世代間の不公平感を和らげる工夫が求められます。制度移行期にはどうしても過渡的な不公平や混乱が生じやすいため、可能な限りシンプルで機械的なルールを設定し、国民の理解を得るよう努めます。また移行に際し特例措置も検討すべきです。例えば基礎年金税方式化により現役世代の手取り収入が増える(保険料負担減)ことを考慮し、低所得層にはその分を老後資金に回せるよう一時金支給や特別減税を行う、といった再分配策も考えられます。逆に高所得層に対しては基礎年金部分の課税強化(現行でも一定以上は課税済み)や支給縮小も検討材料です。改革案2では、公的年金がフラットになる代わりに企業年金拠出が実質義務化されれば企業負担増となるため、中小企業には一定の補助金や税額控除を用意し円滑な導入を促すことも必要でしょう。このように移行期の痛みを緩和する政策パッケージを併せて講じることで、改革の実現可能性を高めていきます。