さらに、積立方式では巨額の資金が金融市場に投下されるため運用リスク管理も重大です。仮に日本の厚生年金保険料18%(労使)相当が全額積立運用となれば、新たに数百兆円規模の年金マネーが市場に投入されることになり、「その資金を市場変動にさらすことの是非」が問われますbloomberg.co.jp。運用利回りが想定を下回れば将来給付が目減りするリスクも個々人が負うことになります。これに対しては、運用の分散・長期化や元本確保型商品の提供、極端な市場変動時の政府によるセーフティネット検討(最低利回り保証や公的年金給付との統合的調整)などリスク緩和策が必要でしょう。また運用機関のガバナンス・手数料管理も重要です。英国ではNESTという公的な低コスト運用機関を設立し、加入者が適切な運用サービスを受けられるようにしました。日本でもGPIF等既存機関を活用しつつ、加入者保護の観点から運用管理の透明性確保と低コスト運用(信託報酬の上限制など)を図るべきです。なお積立方式への移行によって仮に将来世代の給付水準が向上した場合、その恩恵と移行期コストの負担との世代間配分の公平にも留意が必要です。移行期に負担増となる世代(現在の若年層)が報われる設計になっているか、検証と説明責任が求められます。
改革案2:基礎年金の税方式化+厚生年金の廃止(自己責任モデル)制度の概要: 公的年金は基礎年金(税方式)一本に限定し、現行の厚生年金制度は新規給付を行わず段階的に廃止します。全国民は一定年齢になれば一律の基礎年金(最低保障年金)を受け取りますが、収入比例の上乗せ給付はありません。その代わり、各人の老後所得の充実部分は私的年金(企業年金・個人年金)に完全に委ねる形とします。具体的には、被用者については雇用主に対し企業年金への加入(自動加入の義務化)を法律で課し、個人についても若年期から自助努力で積立投資(iDeCoやNISA等)をすることを強く促します。企業年金のない中小企業労働者や自営業者には、国が主導する共通の積立年金制度(日本版NESTや国民年金基金の拡充など)を整備し、自動的に加入させることでカバーします。こうした枠組みにより、現役世代は強制的または半強制的に私的年金を積み立てることになり、将来の老後資金は自己責任で準備するのが原則となります。一方で公的年金としての基礎年金は存続しますから、全く貯蓄ができなかった場合でも一定の給付は受け取れます。さらにそれでも不足する高齢者については最終的なセーフティネットとして生活保護(高齢者加算等含む)で支える体制です。現行の厚生年金の権利については、制度廃止以前に拠出した記録に応じて年金を支給する必要がありますが、新規の拠出は受けないため、例えば賦課方式を維持しつつ被保険者数が減っていく「縮小均衡システム」として段階的に払込を終える形になります(財源不足時は一般財源で補填)。新規加入者は存在しないため、厚生年金は数十年かけて有機的に消滅していくことになります。