以上の海外事例から、日本の年金改革にあたり考えられる選択肢として「税方式基礎年金+積立方式厚生年金」(改革案1)と「税方式基礎年金のみ(厚生年金廃止)」(改革案2)の2案を提示します。それぞれの狙いと制度像、利点と課題を以下に整理します。
改革案1:基礎年金の税方式化+厚生年金の積立方式化制度の概要: 公的年金の一階部分である基礎年金を全額税負担に切り替え、現行の国民年金保険料を廃止します。財源は消費税を中心に一般財源から拠出し、高齢期に全国民が一定額の年金(最低保障年金)を受給できるようにします。二階部分の厚生年金は現行の賦課方式を改め、各被用者ごとに積立口座を設けて保険料を拠出・運用し、将来その個人口座残高に応じた年金を給付する確定拠出(DC)方式に移行します。言い換えれば、公的年金の報酬比例部分を私的年金化する形です。ただし完全移行には長い経過措置が必要なため、例えば一定年齢以下の若年層から段階的に積立方式へ移行し、移行世代の厚生年金給付は従来の賦課部分(過去の拠出に対する年金債務)と積立部分のハイブリッドになります。積立金の運用は公的機関(現行のGPIFを拡充転換)や民間金融機関を活用し、被保険者は予め設計された運用商品(ライフサイクルファンド等)の中から選択、あるいはデフォルト商品に自動的に運用されます。現行の企業年金・個人年金(iDeCo等)は任意で上乗せとして存続しますが、多くの会社員にとっては厚生年金そのものが職場を通じた強制積立年金となるイメージです。
狙いと利点: 第一に、基礎年金の税方式化によって全国民に最低保障年金を徹底させることができます。現行制度では保険料未納・未加入期間があると満額受給できず不足分を生活保護で補うケースがありますが、本改革によりそのようなギャップを解消し、高齢期の所得保障の底上げが可能ですbloomberg.co.jp。財源を社会全体で広く薄く負担(消費税等)するため、現役世代の保険料負担を軽減しつつ若年層にも「将来最低限これだけは保障される」という安心感を与えられます。第二に、厚生年金の積立方式化により、将来的に現役世代が背負う年金財政負担(高齢世代を支えるコスト)を大幅に抑制できます。各世代が自分の給付のための資金を現役期に積み立てる仕組みに転換することで、少子高齢化で現役:高齢者比率が縮小しても賦課方式のように負担が跳ね上がる心配が減ります。実際、河野氏提案の狙いも「世代間の所得移転を減らし、将来世代の負担増を緩和する」点にありましたbloomberg.co.jp。また積立方式は長期運用収益を給付財源に取り入れられるため、賦課方式に比べ給付水準の維持向上が期待できる点も利点です(運用次第では将来の給付水準が現行方式を上回る可能性もあります)。さらに制度の透明性・納得感も高まります。積立口座の残高や将来見込み額が各自に提示されることで(スウェーデンのように年次通知を実施)、自分の老後資金準備状況を把握しやすくなり、計画的な資産形成を促す効果が見込まれます。政治的にも、年金額を決める要素が運用実績など客観的指標に委ねられる分、都度の給付水準改定を巡る政争が減り「年金の脱政治化」に資する面があります。総じて改革案1は、公的年金の最低保障機能を強化しつつ、所得比例部分を各世代の自己積立に転換することで持続可能性と公平性を高める折衷案と言えます。スウェーデンのNDC+FDCやオランダ・カナダの部分積立方式など、国際的にも採用例のあるアプローチです。