以上、主要な海外モデルを概観しました。次節ではこれらの知見を踏まえ、本稿が提案する日本の年金制度改革の2つの選択肢について、その内容と利点・課題を整理します。各モデルの主要特徴を表にまとめると以下のとおりです。
▼主要国の年金モデル比較(日本の改革案との対比)
モデル(国) 公的基礎年金の仕組み(財源) 公的厚生年金(所得比例部分) 私的年金の役割 備考・最低保障策
日本(現行) 国民年金:拠出制(保険料)+国庫補助1/2。加入は全国民(20~60歳)。 厚生年金:賦課方式の報酬比例DB。被用者強制加入(保険料18.3%折半)。 企業年金(厚生年金基金・確定拠出年金等)および個人年金(iDeCo等)は任意加入(加入率低調)。 低所得高齢者は生活保護で保護。マクロ経済スライドで調整。
改革案1(日本) 基礎年金を税方式化:全高齢者に一律給付(所得再分配機能強化)。財源は消費税等の一般税。 厚生年金を積立方式化:被用者ごとの積立口座に拠出・運用し将来給付(DC方式)。現行の賦課方式から段階移行。 (公的厚生年金が個人勘定化されるため、強制加入の私的年金化とも言える。)既存の企業・個人年金は補完的位置付け。 全員に最低年金を保証(無拠出でも受給可)bloomberg.co.jp。移行期に財政支援必要(現給付の財源不足を税投入等で補填)。
改革案2(日本) 基礎年金を税方式化:上記と同様。 厚生年金を廃止:新規の報酬比例給付は行わない。現役世代の収入比例拠出は撤廃。 私的年金に一本化:勤労者は職場での自動加入DCや個人貯蓄で老後資金形成。事業者拠出の義務付け等によりカバー率向上。 公的最低保障は普遍的基礎年金+生活保護(資力不足者)。厚生年金の既得権分は経過措置給付。
イギリス 新国家年金:国民保険料(準税)で賄うフラット給付。35年間の拠出で満額。改革で最低保障水準超に引上げdl.ndl.go.jp。 なし(2016年に国家第二年金を廃止)dl.ndl.go.jp。 職場年金の自動加入:労使計8%拠出のDCに全労働者を加入(オプトアウト可)。加入者数は8年間で10倍に増加commonslibrary.parliament.uk。 低所得者は年金クレジットで補足給付dl.ndl.go.jp。支給年齢を段階引上げ(将来68歳へ)nensoken.or.jp。
スウェーデン 所得比例年金(NDC):賦課方式だが拠出額に応じた記録制。財源は給与18.5%のうち16%分(労使拠出)nensoken.or.jp。不足者には税財源の保証年金で最低保障nensoken.or.jp。 NDCが実質的に報酬比例部分(事実上一元)。上記以外に公的二階部分はなし(遺族・障害年金は別体系)nensoken.or.jp。 プレミアム年金(FDC):拠出18.5%のうち2.5%は個人口座で運用nensoken.or.jp。さらに労使による職域年金が加入者の大半をカバー。 保証年金は税負担100%nensoken.or.jp。自動均衡装置で財政悪化時は給付削減nensoken.or.jp。支給開始年齢柔軟化(62歳以降選択)。
ニュージーランド NZスーパー:一般税収で賄う全国民共通給付。居住要件充足で65歳から支給、所得テストなしnensoken.or.jp。給付水準は平均賃金の66%程度(夫婦合算)nensoken.or.jp。 なし(1970年代に所得比例年金を廃止)。 キウィセーバー:任意加入の個人積立DC(自動加入・オプトアウト可)。標準拠出率は労3%:従3%マッチングnensoken.or.jp。加入率約75%。 全額税負担だが高齢者扶養費は抑制(高齢者貧困率約7%と低水準)。将来財源にNZ年金基金で一部積立。
※各国のデータ出所:OECD統計等より作成。日本の「改革案」は筆者提案。