制度の特徴と示唆: ニュージーランドのモデルは、公的年金を税財源によるユニバーサルなベーシックインカムに近い形で提供し、追加的な部分は完全に個人の自発的蓄財に委ねる点に特徴があります。公的年金部分は制度が極めてシンプルで政治的対立も起きにくく、経済状況に応じて給付水準を弾力調整(物価・賃金スライド)することで財政管理も可能です。実際、近年まで財政黒字を背景に公的年金は余裕をもって運営され、高齢者の貧困率(相対的貧困率)は日本(19%前後)に比べ大幅に低い7%程度となっています※。一方で私的年金はあくまで任意加入であるため、所得水準等によっては不十分な準備しかできない人も存在します。その救済として生活保護制度(高齢者も対象)が機能していますが、NZ Super自体が十分なため高齢者の生活保護受給は稀です。日本への示唆としては、思い切って公的年金を普遍的な税方式基礎年金だけに簡素化し、あとは個人の自助努力+公的扶助に委ねるという選択肢が現実に機能しうることをニュージーランドの例が示している点です。もっとも、日本で同様のモデルを採用する場合、公的年金の給付水準をどこまで設定するか(NZのようにかなり高めに設定すると財源負担も大きくなる)や、国民皆保険ならぬ「国民皆年金貯蓄」をどう達成するか(任意加入だけでなく何らかの自動加入・義務化を検討すべきか)といった論点があります。この点、イギリスの自動加入制度はニュージーランドモデルの弱点を補う仕組みといえ、日本で自己責任型モデルを採用する際には「普遍的基礎年金+私的年金の自動加入」という両国のハイブリッドが参考になるでしょう。
オランダ:居住ベースの普遍年金と厚生年金の集団積立(※本稿の主旨からやや外れるため簡潔に述べます。)オランダは全国民を対象とする居住ベースの全国民年金(AOW)を一階部分として提供し、二階部分として労使が実施する職域年金(企業・産業別年金)がほぼ全就労者を網羅しています。AOWは法定保険料(賦課方式、給与の17.9%を上限所得まで)で賄われ、不足時は一般税で補填されます。満額には15~65歳の50年間の居住が必要ですが、実質的に多くの国民が満額(夫婦一人あたり月約851ユーロ)を受給しますnensoken.or.jp。特徴は、公的年金の支給開始年齢を将来の平均余命に連動させ自動調整する仕組みで、例えば1960年以降生まれは67歳以上に段階引上げと定められていますnensoken.or.jp。二階部分の職域年金は法定強制ではありませんが労使協約で実質ほぼ強制加入となっており、加入者資産は対GDP比で約225%(2021年時点)という世界最高水準の積立金を形成していますnensoken.or.jp。運営は企業や産業別の年金基金が行い、給付設計は平均賃金比例の確定給付型が主流ですが、近年は確定拠出型への移行が決まりました。職域年金の積立運用は中央銀行(DNB)等が厳格に監督し、各基金は将来負債に対し最低105%の資産を保持するなど健全性基準が法定されていますnensoken.or.jp。積立不足時は給付指数のカットや追加拠出で調整し、過度な世代間不公平が出ないようルール化されていますnensoken.or.jpnensoken.or.jp。オランダのモデルは、公的基本部分で広く最低所得を保障しつつ、上乗せは集団的な職域積立に委ねる点で、日本の厚生年金を完全積立化する場合の極端系(公的部分は全額ベース年金、二階は全額私的積立)と言えます。日本の企業年金・iDeCo等はカバー率・資産規模ともオランダに遠く及びませんが、将来的に職域年金の普及を図る上で有益な知見を提供しています。