改革の成果と示唆: スウェーデンの年金改革は、主要政党間の合意の下で進められ、制度設計から運営まで政治的な影響を排し長期安定性を追求した成功例とされていますier.hit-u.ac.jp(改革過程では労使や受給者団体ではなく各党代表が協議)。その成果として公的年金の将来負担は明確にコントロールされ、仮に出生率低下や寿命延伸で財政悪化しても自動的に給付調整が行われる仕組みが機能していますnensoken.or.jp。一方でNDCはあくまで保険料拠出実績に応じた給付であるため、低所得で拠出の少なかった人の年金は低額になりますが、それを税財源の保証年金でカバーし高齢者貧困を防いでいますnensoken.or.jp。またスウェーデンでは職域(企業)年金も発達しており、NDCの給付上限(所得上位分)は労使の団体協約による年金で補完されていますnensoken.or.jp。日本にとって示唆的なのは、自動調整機能による年金の脱政治化と部分的積立方式の導入です。前者は日本のマクロ経済スライドにも通じる考え方ですが、スウェーデンのように財政悪化時には自動的に給付カットも発動するルールを徹底すれば、将来世代へのツケ回しを防ぎ信頼性を高められます。後者の部分積立についても、日本の厚生年金を一部積立化する際の参考になります(AP基金活用による移行コスト負担など)。ただし、スウェーデンは基礎部分を税方式ではなくあくまで社会保険方式で残した点で、次に述べるニュージーランドや提言する改革案2とはアプローチが異なります。
ニュージーランド:普遍的ベーシック年金と自発的積立の組合せ制度の概要: ニュージーランドは公的年金としてニュージーランド・スーパーアニュエーション(NZ Super)と呼ばれる普遍的定額年金を提供しています。これは全国民(一定の居住要件を満たす65歳以上)に所得調査なしで支給されるもので、税金を財源に賄われ、拠出制や積立方式はとっていませんnensoken.or.jp。給付額は賃金水準に連動し、夫婦世帯で平均賃金の約66%となるよう法律で規定されていますnensoken.or.jp(2022年時点で夫婦各々週約427NZドル、単身で週約463NZドル〈税後〉)。このように高福祉的なベーシック年金を税方式で提供しているため、公的年金だけで一定の生活水準が維持可能であり、高齢者貧困率も低い水準に抑えられています。もっとも、公的年金が手厚い分だけ私的年金の発達は遅れていました。そのため政府は将来世代の負担増抑制と個人の上乗せ資産形成を促す目的で、2007年にキウィセーバー(KiwiSaver)と呼ばれる自発加入型の私的年金制度を導入しましたnensoken.or.jp。キウィセーバーは事実上の自動加入方式で、雇用者は全ての新規労働者をこの積立年金に加入させ(一定期間内なら本人意思で脱退可)、従業員が給与の3~10%を拠出すると雇用主も3%を拠出するマッチングが行われますnensoken.or.jp。加入者には税額控除(年最大521 NZドル)など政府のインセンティブもあり、住宅購入目的での一部引き出しも可能とする柔軟性も付与されていますnensoken.or.jp。キウィセーバー導入後、労働人口の大多数が加入し相当額の老後資産形成が進みました(2020年時点で総加入者約300万人、国内総人口の約60%強)。公的年金が普遍的かつ十分な水準で支給されるため、追加の私的年金は本人の生活水準向上のための自助的手段という位置づけです。公的年金財政については、将来の給付財源に備えるニュージーランド・スーパー基金を2001年に創設し、予算余剰を積み立てて運用する取り組みも行われています(近年一時拠出停止もありつつ、長期的に税負担を平準化する試み)。なお支給開始年齢は現在65歳ですが、高齢化を踏まえ今後67歳へ引き上げる法改正も検討されています。