今回の研究では、ハッブル・テンションを説明する一つの可能性として、「宇宙全体がごくわずかに回転している」という仮説が提案されました。ここで言う「回転」とは、地球や銀河のように“天体が回る”ことではなく、時空そのものがわずかな角運動量を持っているという意味です。

研究チームは「暗黒流体(dark fluid)モデル」を採用しました。これは、ダークマター(暗黒物質)とダークエネルギー(暗黒エネルギー)を一つの統合的な“流体”として扱い、宇宙全体の膨張とその力学を記述する理論です。

このモデルにゆっくりとした回転(現在の角速度 ω₀ ≈ 0.002 Gyr⁻¹)を加えると、CMBから求めた膨張速度と、超新星からの観測値がうまく一致することが数値シミュレーションで示されました。

回転速度とハッブル定数の関係(論文Figure 2より)。横軸が現在の宇宙の回転速度、縦軸が得られるハッブル定数。CMBと超新星の観測値のズレが、適度な回転により解消されることがわかる。
回転速度とハッブル定数の関係(論文Figure 2より)。横軸が現在の宇宙の回転速度、縦軸が得られるハッブル定数。CMBと超新星の観測値のズレが、適度な回転により解消されることがわかる。 / Credit:Szigeti et al. (2025), Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, CC BY 4.0.

宇宙が回るとはどういうことか?

では「宇宙が回転している」とは、どういうことなのでしょうか。

ここで言う回転は、空間の中のものが動いているのではなく、「空間そのものが角運動量を持っている」という考え方です。これは、空間と時間をあわせて扱う「時空」が、わずかにねじれているような状態です。

研究チームは、非膨張系の物理座標を使った数理モデルで、この時空の回転が膨張に与える影響を計算しました。

球対称系と円柱対称系における回転宇宙の模式図(論文Figure 3より)。粒子の流れが宇宙の膨張を表し、ωが角速度を示す。
球対称系と円柱対称系における回転宇宙の模式図(論文Figure 3より)。粒子の流れが宇宙の膨張を表し、ωが角速度を示す。 / Credit:Szigeti et al. (2025), Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, CC BY 4.0.