100年前、天文学者エドウィン・ハッブルは、私たちの宇宙が静止しているのではなく「膨張している」ことを発見しました。
遠くの銀河ほど私たちから速く遠ざかっていることが観測されたのです。
これは、宇宙全体が風船のように膨らんでいることを意味し、現代宇宙論の基礎となっています。
この膨張の痕跡の一つが、「宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background:CMB)」です。
これは約138億年前のビッグバンの残響とも言えるもので、宇宙のあらゆる方向から観測されます。ビッグバンの直後に放たれた高エネルギーの光が、宇宙の膨張とともに波長を引き伸ばされ、現在では微弱なマイクロ波となって宇宙全体に広がっているのです。
ところが、この膨張速度を測る方法によって得られる値が一致しないという、深刻な問題が存在します。この観測値のズレは「ハッブル・テンション(Hubble tension)」と呼ばれ、現在の宇宙論における最大の謎の一つです。
この謎を解決する可能性として、「宇宙全体がごくわずかに回転している」という仮説が注目を集めています。
この仮説を提案したのは、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学(Eötvös Loránd University)、ハンガリー研究ネットワークWigner物理研究センター(HUN-REN Wigner Research Centre for Physics)、そしてハワイ大学天文学研究所(Institute for Astronomy, University of Hawaii)の研究チームです。
ついに天動説が時代に追いついたのかもしれません。
彼らの研究成果は、2025年3月21日に英国王立天文学会の学術誌『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』に掲載されました。
目次
- なぜ「膨張速度のズレ」は問題なのか?
- 「宇宙が回転している」という仮説の中身
なぜ「膨張速度のズレ」は問題なのか?
