しかもサハラがまだ緑豊かだったアフリカ湿潤期(約1万4,500~5,000年前)でさえ、南北間の大規模混血はさほど進まなかった可能性があると示唆されました。
この成果がなぜ革新的かというと、気候や地理条件から「ほぼ不可能」と思われていたサハラ中心部の古代遺骨から、7,000年前という具体的な年代の詳細なゲノム情報を直接得られたからです。
これまでは埋葬様式や岩絵などの遺物から推測していた北アフリカの人類史が、“当人たちのDNA”という確かな証拠で補強され、どの集団がどの程度混血し、どう動いたかをより明確に語れるようになりました。
“出アフリカ”の物語だけでは説明しきれない複雑な人類史を再発見するうえで、今回の研究は大きな突破口といえるでしょう。
そこでもしある集団が1万年にわたり狭い範囲に閉じこもり、他の地域からの遺伝的流入が限定された状態が続いたとしたら、その間にどのような“進化的変化”が起こり得るのかを、これまでの研究データを参考に分析してみます。
身体的形状の変化
まず注目したいのは、骨格や体型の変化です。
人間の身体的形状は、食生活や生活環境、気候、文化的習慣などが総合的に影響して変化します。
たとえば狩猟中心の生活を送る環境であれば、走ったり移動したりする機会が多くなり、筋力や脚の形状に強い選択圧がかかるでしょう。
また、寒冷地に住み続ければ、体の熱を逃がさないように体格がコンパクトになる可能性があります。
逆に、高栄養な食料を安定的に得られる社会で、長身が好まれるような文化的・性的選択圧が働いたなら、短期間で平均身長が数センチから10センチ単位で伸びることもあり得ます。
さらに、顎や歯の形状は食事の軟らかさによっても変化しやすいとされ、農耕民が増えた時期には顎が小さくなってきたともいわれます。
もし狭い集団で独特の食事様式が何世代にもわたって続けば、数千年から1万年というスパンでも目に見える変化につながるかもしれません。
病気リスクや免疫の変化