次に考えられるのは、感染症や免疫に関する進化です。

もしある地域で特定の病原体が猛威を振るい続ければ、その病気に強い耐性を獲得した遺伝子変異を持つ人々が子孫を残しやすくなり、集団全体にその変異が広まる可能性があります。

実際にマラリア地帯では鎌状赤血球症の保因者が多いように、数千年単位で顕著な変化が見られることがあります。

あるいは高脂肪食や糖質過多などが続く地域であれば、糖尿病や生活習慣病のリスクを左右する遺伝子が集団内にどう広がるかも注目されます。

もっとも、そのような環境でも自然選択が別方向に働き、“太りにくい”体質を獲得する可能性もあるため、決して一方向だけに変化するわけではありません。

いずれにせよ、1万年あれば集団の遺伝的特徴がはっきり変化するには十分な長さです。

肌の色の変化

肌の色は日照や紫外線量とのバランスが大きく関係します。

ビタミンD合成には適度な紫外線が必要ですが、過剰な紫外線はDNAを傷つけるリスクがあるため、地域ごとに肌の色の進化が起こったと考えられています。

ヨーロッパで肌が比較的白くなったのは、農耕の導入後1万年ほどで進行した可能性があるという説もあるほどです。

同様に、1万年もの交流が限られた環境で、極端に日照が少ない地域なら肌がかなり白くなる選択圧が働いたかもしれませんし、逆に強烈な直射日光を受け続ける地域ならさらに肌が黒くなる方向に進んだとも考えられます。

数世紀、数千年単位でも肌色の変化は十分あり得るのです。

これらを総合して考えると、1万年という期間は、人間の身体的特徴や病気リスク、肌の色といった要素が変化するには十分な長さだと言えます。

特に、集団が小規模で、生存に関わる強い選択圧(気候・病原体・食生活の制限など)があれば、顕著な適応が急速に進むかもしれません。

たとえば、誰が見てもわかるほどの体型の変化や、明らかな肌色の違い、ある感染症への強い耐性、さらには食物代謝の独特な特性などが形作られる可能性も充分あります。