もしWSJの描写が正しいとすれば、中国政府も徹底抗戦の用意を万全にしているわけではなく、恥をかかないような降り方を探しているところであると推測できる。トランプ政権側が「中国から取引を求める電話を待っている」と述べたのも嘘ではないだろう。
他の先進国は自らがローズガーデンの上乗せ関税からほぼ解放されたこともあり、中国政府に対し、他の先進国が中国の後に続いて対トランプ政権の大合従を形成する可能性はないと引導を渡しつつ、仲介を提案することも可能になる。特にEUが中国側に付く可能性がない、と明らかにしておくと、中国政府をリングから引きずりおろしやすくなるだろう。
世界政治のあらゆる複雑怪奇な事象にはまず、「中国政府が多極化を前進させる機会ととらえた→中国政府には人望がなかった」という構図をまずは当てはめてみて、違ったらまた考えればよい。
EUは先立っての鉄鋼・アルミ関税への対抗措置を公表していたが、ローズガーデンの上乗せ関税に対する報復関税は慎重に回避している。またローズガーデンの上乗せ関税が90日ポーズになったと聞くと既存の報復関税についても90日の保留を発表した。一人報復に討って出た中国に付いていかないことにより西側諸国は忠誠ポイントを稼いだ。
90日の間にトランプ政権が上乗せ関税が復活する可能性もないわけではないが、基本的に公約の一律10%(と中国60%)以上の同盟国に対する国別関税に対してトランプ政権は無頓着であると考えられる。一方、10%から更に引き下げさせるのはかなり困難だろう。米中が目線を釣り上げてくれたおかげで、一律10%でも有り難い気がしてくる。
迂回輸出拠点になってきた新興国は先進国と比べると辛い立場に立つ。ベトナム政府は米国に対して真っ先にゼロ関税をオファーしたが、ナヴァロ通商顧問に「問題は関税ではない」と一蹴された。
東南アジアの「迂回輸出」容疑者諸国に求められる役割は明らかに「迂回輸出のブロック」であり、従って「関税ゼロ」だけではカードが足りないと感じるならば、迂回輸出の拠点にはならないことを表明し対策を提示するのが、米国側が要求する正解であると考えられる。なお正解を持って行ったところで「中国からのサプライチェーン移転を利用した成長」ストーリーも消えてしまうため、東南アジア諸国にとっては踏んだり蹴ったりである