いずれにしろ、一旦は関税を毟る相手が中国だけでなく全世界に広がったように見えたものの、結局のところ、議題は中国に収束していくのである。これは大原則である。中国の製造業の圧倒的な生産能力による脅威は(技術競争的な意味でもデフレ輸出的な意味でも)世界の中でも別格なのである。

「対世界」関税の本質が中国包囲網であることも中国政府は最初から理解している。中国政府は交渉も待たずに直ちに米国に対して34%の報復関税を公表した。トランプ政権は週末いっぱいにわたり沈黙を保った後、中国に対して報復関税を取り下げない限り、更に50%の追加関税を発動すると発表した。中国がそれを聞いて折れるはずもなく、米国時間4/9午前0時に中国に対して104%の関税が発動された。中国も更に報復関税率を34%から84%まで引き上げた。

ローズガーデンの上乗せ関税の発動までまだ相当時間があり、中国がことさら先陣を切って目立とうとしたのはなぜか。それは全世界がトランプ政権の関税毟りの被害者になったこのタイミングで、反トランプ政権の機運を盛り上げるためではないか。

中国は関税のメインターゲットであるため、他国首脳に混じってトランプ政権詣でを行ったところで、中国だけが厳しい条件を突きつけられる可能性が高かった。であれば関税が対中国から対世界になったように見えるタイミングで世界各国を巻き込んで米国対その他の対立構造に持ち込もうとするのが合理的である。例えばもしEUも続いてちゃぶ台返しに動けば「世界対トランプ政権」の構図はかなり明確になる。

しかし、各主要国政府はすぐに中国政府の企みを見抜いた。トランプ政権の関税観のうち、対中国の部分への思い入れの強さを予習していれば、中国のちゃぶ台返しへの対応の選択肢はおのずと見えて来る。

要するに、一部のゲーム参加者の暴発は、他のゲーム参加者にとって忠誠アピールの機会になるのである。もちろん中国問題と無関係にトランプ政権には「他の国々が米国にフリーライドしてきた、だから関税で毟って歳入に繰り入れる」という関税観も別途あり、それは他の国々にとって不快なものであったことは間違いない。それでも「中国に続く形で対米報復関税を発表する」行為の意味を各主要国政府は過小評価せず、中国に続く国はついに現れなかった。