それでもIEEPAの「経済的措置」にそもそも関税が含まれるか、というところから差し止め訴訟が始まると思われるし、トランプ政権の中にも雑な論法を使っているという自覚はあるだろうから、ローズガーデンの関税率は「吹っ掛けてみた」に限りなく近いと思われるものの、かと言って差し止め訴訟の勝利にベットするのも困難である。

最適関税率超えのパニック

計算の仕方によって異なるが、4/2のローズガーデンの関税率が実現した場合、米国の輸入品平均関税率は20~29%まで上昇する。

第二次トランプ政権が公約で掲げた「中国60% +諸外国一律10%で平均17%」よりも明らかに高くなっており、スムート・ホーリー関税法時代の20%を超えて20世紀初頭の水準まで巻き戻ることになる。また最適関税理論の20%をさえも大きく上回るため、最適関税理論でも米国経済にとってネガティブになる領域に突入している。

まさか最適関税理論に従ってのことではないだろうが、GSはローズガーデンの関税率を見て米国の景気後退確率を45%まで引き上げた。

ローズガーデン関税の規模はサプライズだったものの、ベッセント財務長官が予め述べたようにこの水準がキャップであり、交渉によって引下げ余地があると考えるのが自然である。公約や最適関税理論の水準を遥かに上回るため、トランプ政権も――ゼロには戻さないだろうが――ある程度の引き下げを前提にしてリストを発表したに違いない。各国政府は米国に対して譲歩できる点のリストを作り始めた。

中国との貿易戦争への回帰

広範な一律関税がなぜ必要か。もちろん我々が何度も議論してきたように、まず「毟って歳入に入れる」が挙げられる。次に重要なのは迂回輸出の防止である。つまり、関税のターゲットを1ヶ国にのみ定めたとしても、その国の企業は他の国を使って迂回輸出を試みるだろう。

現に第一次トランプ政権から始まった米中貿易戦争と関税を受け、中国企業が工場をベトナムやメキシコに移転したことが知られている。ベトナムをはじめとする東南アジア諸国の関税率が軒並み高いのは偶然ではなく、シンプルな計算式は不自然な対米貿易黒字を検出することができたのである。もっともレソト王国のように、多少なりとも米国への輸出があるものの貧しすぎて米国から全く物を買えない小国も誤爆される結果になる。