つまり、精度と公平性のバランスをいかに取るかという、非常に難しい課題に直面しているわけです。
まとめると、このプロジェクトにおいて重要なのは「どんなデータを使っているのか」「それをどういうロジックでリスクに変換しているのか」という透明性の確保です。
個人のメンタルヘルス情報や、被害者・目撃者としての経歴まで材料にするのであれば、アルゴリズムの結果がどれほど正確かだけでなく、そこに含まれる価値観やデータのバイアスをどう扱うのかが大きなポイントとなります。
結局、数字や機械学習の“客観性”が、社会的な偏見と結びつきやすいという現実がある以上、単純に「大量のデータを使うから安全だ」と言い切れるものではないのです。
“AIで殺人を減らせるのか”メリットと未来予想

では、イギリス政府が「まだ犯罪を犯していない人」までも分析対象に含めようとしてまで、この殺人予測プロジェクトを進めるのはなぜなのでしょうか。
表向きの答えとしては、「重大犯罪を未然に防ぐため」というきわめて切実な目的が挙げられます。
人命にかかわる凶悪事件を減らすことは、社会全体にとって計り知れない恩恵があるはずだからです。
ここでは、そうした取り組みがどのような形でメリットをもたらすと想定されているのか、そして今後どのような展望が開けるのかを考えてみましょう。
- 重大犯罪の未然防止
一つめの大きな期待は、何と言っても「殺人などの深刻な事件を事前に食い止める」という点です。
従来の警察活動は、犯罪が起きてから捜査し、犯人を逮捕するという“事後対応”が中心でした。
しかし、AIやビッグデータを活用することで、「将来的に重大な暴力行為を起こしやすい要因」を事前に洗い出し、リスクの高い人へ早期介入を図ることが可能になると考えられています。