これまでにも犯人の再犯率を裁判官が経験や直感に頼って予測し、量刑を判断していました。
再犯の可能性というのも下される刑の重さにおいて考慮すべき重要な問題だからです。
しかしこのような人間に頼った判断を、統計解析やアルゴリズムで補強することで、より客観的かつデータドリブンなジャスティス(正義の執行)が行えるのではないか――という期待感が当局にはあるのです。
- より良い社会を目指して
現時点では「研究目的にとどまる」と説明されているこのプロジェクトですが、もし一定の成果を上げれば、今後は多方面で実務利用される可能性があります。
たとえば、地域の福祉機関と連携した早期支援プログラムに活かすことも考えられるでしょう。
アルゴリズムが「この人は危機的状況に陥りつつある」と判断すれば、福祉や医療といったケアを手厚くすることで深刻な事件に発展するのを防ぐ――という構想です。
最終的には、社会のなかで孤立する人や、助けを必要としていながら放置されてきた人を早期に拾い上げ、より安全で安心なコミュニティを築こうという青写真が描かれています。
もちろん、実際にうまく機能するかどうかは未知数ですし、メリットだけを強調するのは危険です。
次のセクションで触れるように、データに基づく予測には必ずバイアスやプライバシーの問題がつきまといます。
それでもなお、技術の進歩と社会の要請が合わさることで、この殺人予測システムが“犯罪抑止の切り札”として脚光を浴びる可能性は大いにあるのです。
AI監視社会の到来? 根深いプライバシーと差別の問題

前のセクションでは「殺人予測プロジェクト」によるメリットや期待される効果を紹介しましたが、当然ながらこうした取り組みには大きなリスクや懸念も伴います。
特に、人権・プライバシーの保護や差別的なバイアスの問題など、社会的に看過できない課題が山積しているのです。