たとえば、メンタルヘルスや家庭内暴力などのデータを活用することで、事件を引き起こす前段階――すなわち、まだ軽度のトラブルやサインが現れている段階で適切な支援や監視を行い、結果的に命を守ることにつなげようというわけです。

  1. 警察・司法当局のリソース効率化

二つめのメリットとしては、限られたリソースの効果的活用が挙げられます。

現場の警察官や司法当局は、常に膨大な案件に追われています。

それら全てに対して、同じレベルの監視や支援を行うのは事実上不可能です。

しかし、もしAIによる予測で「この人物は大きな暴力犯罪を起こす可能性が高いかもしれない」という示唆が得られれば、優先順位を定めた介入やモニタリングを行うことができるようになります。 

たとえば2009~2013年の研究をまとめたMoJの報告書では、暴力再犯予測のAUCが約0.70~0.73という結果が示唆されています。

(※AUCが0.5ならば「まったく予測できない」レベル、0.7を超えると「そこそこ有用」とされます)

またダラム警察が導入した機械学習ベースの再犯予測ツールにおいても似た結果が得られています。

このツールの試験運用初期に公表された論文や報道では、「高リスクと判定されたグループが実際に再犯に至る割合」が約60~65%程度などと報じられました。

このように取りこぼされがちな高リスク者への対応を重点的に行い、比較的低リスクと判定された人々には別のアプローチを用いるなど、より柔軟で効率的な運用が期待できるのです。

  1. 法務・司法システムの近代化

三つめのメリットとして考えられるのは、法務・司法システムそのものの近代化です。

データやAIを使ったリスク分析は、刑務所の管理や保護観察などにも応用が可能です。

現にイギリスでは、OASys(再犯予測ツール)を使って量刑や保釈の判断に活かす試みがすでにありますが、今回の殺人予測プロジェクトはその延長線上に位置づけられます。