大量のデータをインプットし、「過去に殺人を起こした人たちのパターン」と「現在リスクがあると思われる人の特徴」を比較し、数学的な方法でリスクの高低を数値化するのです。
具体的には、前科や家庭環境、メンタルヘルス状況などを数多くの変数(変動要素)として取り込み、そこに重みづけを施して「殺人リスク」のスコアを算出します。
たとえば、同じ前科を持っていても、家庭内暴力の経歴や極度のアルコール依存症がある場合には、よりハイリスクと判断される、といった具合です。
すでにイギリス司法省の中には「OASys(Offender Assessment System)」という再犯予測ツールが存在し、実際に裁判や保釈の判断で使われています。
ただし、この既存ツールは「刑務所や保護観察を通じた実際の罪状や違反行為」を主な指標としています。
一方、この“殺人予測プロジェクト”は、それよりも幅広い領域のデータ――警察への相談実績や、心身の健康、社会的弱者としての支援履歴など――を組み合わせているため、より詳細かつ多面的なリスク分析を行おうとしているのが特徴です。
研究段階だと当局は言っていますが、過去にはデータ解析の研究成果がすぐに実務へ転用された事例が多数存在します。
今回も同様に、もしアルゴリズムの精度がある程度高いと判断されれば、判決や保釈判断、もしくは警察による「事前の要注意人物リスト」の作成に使われるかもしれません。
そうなった場合、ほんの少しでも「リスク」が示唆される情報を持っている人たちは、一気に当局の監視対象になってしまう恐れがあります。
こうしたアルゴリズムによる予測の問題点は、基盤となるデータに既存の偏見やバイアスが含まれている可能性が極めて高いことです。
たとえば、特定の地域や特定の人種・所得層の人々は、警察への検挙や通報が多いためデータベースに蓄積されやすく、その結果として高リスクに分類される確率が高まる――という「仕組みとしての不公平」が懸念されているのです。